在庫管理のやり方・基礎編 成功事例から在庫管理システムの選び方までわかりやすく解説
公開日：2024年02⽉29⽇
最終更新日：2024年03⽉28⽇
在庫管理の適切なやり方を知らずに行うと、企業の業績に深刻な影響を及ぼすことがあります。より効果的な在庫管理をするために知っておくべき、在庫管理の基本からよくある課題の解決方法、効率的な管理の重要性、そして現状の把握と整理の手順を解説します。さらに、自社に合った管理方法の選択や、在庫管理システムの導入によるメリットと成功例、失敗しないためのポイントまで紹介します。
在庫管理とは何か
在庫管理とは、必要な製品や材料を適切な量、適切な時期に保有し、需要に応じて効率的に供給できるように管理するプロセスです。在庫管理を正しく行うことで、コスト削減、顧客満足度の向上、そして最終的には企業の収益性向上に繋がります。また、常に最新の在庫状況を把握できる体制があると、予測不能な市場の変動にも対応しやすくなります。よって、在庫管理を適切に行うことは、企業の持続可能性を確保するために重要です。
在庫管理のよくある課題
在庫管理は製造業において重要なプロセスですが、多くの企業がさまざまな課題に直面しています。紙ベースやエクセルでの管理に起因するミス、在庫管理表と実在庫の数量に生じる差異、そして在庫過多や欠品が顧客満足度や経営に与える影響など、これらの課題は企業の効率性と収益性に大きく影響します。ここではまず、これらの一般的な問題を深堀りし、その原因を解説します。
紙やエクセルの管理でミスが多発する
多くの中小・中堅企業では、今でも紙やエクセルを使った在庫管理が行われています。誰でも手軽に取り入れやすい一方で、入力ミスや情報の非同期化など、様々な問題が起きやすいというデメリットがあります。よくあるアナログな在庫管理の課題は、以下のとおりです。
- 手書き文字の書き損じ・読み間違え
- エクセル手入力時の入力ミス
- 手書きやエクセルでの管理の手間がかかる
- リアルタイムでの情報更新や共有が難しい
データの手入力は時間がかかるだけでなく、誤りが発生しやすいため、誤った情報に基づいた判断が行われる可能性があります。
一例として、手書き棚札の在庫数を、エクセルの在庫管理表に転記していた企業のケースを見てみます。まず、棚札への手書き作業では、現場担当者による書き間違いや、エクセル入力者の読み間違いが度々起きていました。エクセル入力時のタイプミスも含め、ヒューマンエラーをゼロにすることが難しい状況でした。また、棚札を集めてエクセルに転記する作業は時間がかかるため、週1回程度しか集計ができず、在庫管理表が更新されるまでのタイムラグがありました。現場とエクセル管理者で最新の在庫情報を共有することも難しく、在庫数を確認するために実在庫を数える作業が度々発生していました。
これは、紙とエクセルによる在庫管理に課題を感じている企業のごく一例ですが、同じ悩みを持つ中小企業は少なくありません。
在庫管理表と実在庫の数量に差異が生じる
在庫の記録と物理的な在庫量の間に差異が生じることも、製造業においてよくある問題です。この差異は、製品の紛失、盗難、記録ミスなど、多くの原因によって発生します。
在庫の差異には、在庫不足と在庫過多の2パターンがあります。十分在庫があると思っていた部品や製品がない場合は在庫不足となり、特急手配が必要となります。場合によっては、通常より割高に在庫を確保しなければならなくなるケースもあります。一方、在庫過多が起きる場合もあります。よくある例としては、在庫の保管場所がわからず、欠品していると思い発注した品物が後から見つかるケースなどです。入庫処理を正確に行っておらず、管理上の在庫数が少なくなっていた場合も、過剰発注が原因の在庫過多に繋がります。
このような在庫リスクに直面すると、生産計画や顧客への納品に悪影響を及ぼす可能性もあります。
在庫過多や欠品で顧客満足度や経営に影響が出る
在庫管理の不備が在庫過多や欠品という形で現れると、直接的に顧客満足度の低下や経営上の問題を引き起こします。在庫過多は不必要な保管コストや資本の浪費に繋がり、一方で欠品は顧客の信頼損失や売上機会の逸失につながります。「この会社は欠品が多く、納期遅延も多いから、他の会社に注文する」という事態になりかねません。
効率的な在庫管理の重要性
適切な在庫管理を行うことで、不必要な在庫コストの削減、需要の変動に対応する柔軟性の向上、顧客からの信頼獲得につながります。効率的な在庫管理がビジネスにもたらす3つのメリットは以下のとおりです。
コスト削減
効率的な在庫管理により、保管コストの削減、資本の適切な配分、廃棄物の減少を実現できます。在庫は企業資源の一部であるため、その管理にはコストが伴います。在庫レベルを最適化することで、保管にかかる費用を削減し、資本をより生産的な活動に利用することが可能です。
期限管理が必要な原料や製品を扱う企業の場合は、適切な在庫管理により、期限切れ在庫の滞留や在庫ロスの防止も期待できます。
販売機会の損失の防止
在庫管理がうまくいかないと、製品の欠品が発生し、売上機会の損失につながります。効率的な在庫管理は、需要の変動に迅速に対応し、機会損失を最小限に抑えることを可能にします。
顧客満足度の向上
適切な在庫管理は、顧客のニーズに迅速かつ正確に応えることを可能にし、結果として顧客満足度の向上に貢献します。製品の在庫が確実にあることで、顧客の注文に対する迅速な対応が可能になり、信頼性の向上を実現できます。
在庫管理のやり方：2つの手順を必ず踏む
次に、適切な在庫管理のやり方を具体的に解説します。以下の手順を踏み、自社に合う在庫管理の手法を採用することが重要です。
- 手順1：在庫管理の現状把握と整理
- 手順2：自社に合う在庫管理のやり方を検討・実践
手順1：在庫管理の現状把握と整理
在庫管理の最初のステップは、現状を正確に把握し、整理することです。このプロセスには、在庫の詳細な分析から適正在庫数の設定までが含まれます。ABC分析や在庫回転率の分析を通じて、どの製品が最も価値が高いか、または最も頻繁に動いているかを理解し、適正在庫レベルを定めることが重要です。また、在庫の動きを可視化することで、将来の計画立てや改善策の基盤を築きます。
在庫分析に役立つ具体的な手法は、以下3つです。
ABC分析
ABC分析は、在庫品を売上高や利益貢献度に基づいてカテゴリー分けする方法です。この分析により、企業はリソースを最も価値の高い在庫品に集中させることができます。
ABC分析を行うことで、どの製品がAカテゴリー（最も重要度が高い）に属し、どの製品がCカテゴリー（最も重要度が低い）に属するかを明確にし、それに応じた管理戦略を立てることができます。たとえば、最重要のAカテゴリに入る製品は、決して在庫切れにならないよう安全在庫を多めに持ち、Cカテゴリに入る製品は在庫を抱えないよう都度発注を心がける等、メリハリをつけた管理が可能です。
ABC分析をするには、各在庫品の売上金額をデータ化し、売上金額が高い順に並べ替えたうえで貢献度を分析します。ただし、季節などで売上数が大きく変動する製品は、売上比率にも波があることを加味して分析する必要があります。
在庫回転率分析
在庫回転率は、一定期間内に在庫がどのくらいの速さで売れているかを示す指標です。高い在庫回転率は健全な在庫管理を示す一方で、低い回転率は過剰在庫の可能性を示唆します。保有する在庫が多いほど管理コストも大きくなるため、在庫回転率を分析することで、より効率的な在庫管理の徹底が可能になります。
適正在庫数を定める
適正在庫数とは、顧客の需要を満たすために保持する必要がある最適な在庫の量を指します。適正在庫数を定めることは、需要と供給のバランスを保ちながら、過剰在庫や在庫不足を防ぐために不可欠です。この数値を特定することにより、保管コストを最小限に抑えつつ、顧客サービスレベルを最大化できます。
たとえば、発注から入荷までのリードタイムが長い製品や、納期が不安定な仕入先から購入する製品などは、安全在庫を多めに確保しておく必要があります。一方、短納期で仕入れられる製品は、最低限の在庫で回すことが可能です。
参考：在庫管理と発注業務の関係と重要性、システム活用で効率化する方法を解説
手順2：自社に合う在庫管理のやり方を検討・実践
自社の在庫管理の現状を把握したら、自社の特性に合わせた在庫管理方法を選定し、実践していきます。以下、ロケーション管理、定量発注方式、定期発注方式など、様々な在庫管理手法を紹介し、それぞれのメリットと注意点を解説します。
ロケーション管理
ロケーション管理を行うことで、在庫の正確な位置を把握し、取り出しや補充を迅速に行えるようになります。在庫の保管場所に迷ったり、在庫がなくて現場を探し回ったりする手間をなくし、作業効率を大幅に向上させます。特に、多品種少量生産を行う企業や、複数の保管場所を持つ企業において、在庫の迅速な移動と正確な管理が求められる場合に有効です。
定量発注方式（発注点方式）
定量発注方式とは、在庫が一定数量を下回った時点で在庫を発注する管理方法です。この要発注の在庫レベルを「発注点」と呼ぶことから、発注点方式ともいいます。
この方式は、在庫水準を一定の範囲内で維持することで、過剰在庫や在庫不足を防ぐ効果があります。欠品を防ぐ効果が高い在庫管理方法ですが、在庫の消費速度やリードタイムを考慮して、発注点と発注量を精密に計算する必要があります。
定期発注方式
定期発注方式では、決められた周期ごとに在庫のレビューを行い、必要に応じて発注を実施します。この方法は、発注プロセスを簡素化し、定期的な在庫評価により変動する需要に柔軟に対応することが可能です。特に、需要の予測が比較的安定している製品や、発注プロセスの容易化を目指す場合に適しています。
定期記録による在庫管理
定期記録方式は、定期的に在庫を監査し、必要に応じて調整を行う方法です。このアプローチは、在庫の精度を高め、不正確な記録や紛失による問題を最小限に抑えるのに役立ちます。特に、在庫の変動が大きい企業や、在庫管理の透明性を高めたい企業に適しています。
需要予測による在庫管理
需要予測を用いた在庫管理は、過去の販売データや市場のトレンドを分析し、未来の需要を予測することに基づきます。この方法は、在庫を効率的に管理し、市場の変動に柔軟に対応することを可能にします。特に、季節性が高い製品や新製品の導入時に有効です。
ジャストインタイム方式
ジャストインタイム（JIT）方式は、必要な時に必要な量の在庫を供給する在庫管理手法です。この方式は、在庫を最小限に抑えることで保管コストを削減し、生産効率を最大化します。JIT方式の成功は、サプライチェーンの効率性と信頼性に大きく依存しています。
より少ない工数で管理するなら在庫管理システム
在庫管理を効率化し、工数を削減するためには、在庫管理システムの導入が効果的です。在庫管理システムが得意とする業務の自動化で、時間とコストを大幅に節約できます。また、在庫の精度を高め、経営資源を最適化することで、企業の競争力を向上させることも可能です。
在庫管理システムのメリット
在庫管理システムの導入は、製造業にとって以下のメリットがあります。
- リアルタイムでの在庫状況の見える化
- 作業効率の大幅向上による省人化
- 余剰在庫や在庫不足のリスク軽減
在庫管理システムが製造業の日常業務にどのように役立つかについて、具体的な例を挙げて詳しく解説します。
在庫状況をリアルタイムに見える化
在庫管理システムを利用すると、最新の在庫状況をリアルタイムで確認できるようになります。在庫の見える化を実現すると、在庫の過剰や不足を防ぐだけでなく、需要の変動にも迅速に対応できるようになります。また、生産計画や販売戦略をより正確に立てることも可能になり、結果的に顧客満足度の向上にもつながります。
作業効率化による省人化
在庫管理システムの導入で、在庫管理に関わる作業を自動化すると、従業員の作業負担を大幅に軽減します。手動でのデータ入力や在庫チェックなどの時間を要する作業が減少することで、従業員はより価値の高い業務に集中できるようになり、また人件費の削減にも貢献します。
余剰在庫や在庫不足の防止
余剰在庫は資本の無駄遣いであり、在庫不足は顧客満足度の低下に直結します。在庫管理システムは、最適な在庫レベルを維持することを可能にし、企業がこれらの問題を効果的に回避するのを助けます。在庫管理システムによっては、需要の予測、在庫の自動補充、過剰在庫の警告などの機能もあり、より効率的な在庫管理が実現できます。
在庫管理システム導入の成功例
実際に在庫管理システムを導入し、在庫の見える化や省人化などに成功した企業の事例を2社紹介します。
2人で行っていた入出庫作業を1人で可能にした省人化事例
ある医薬品原料メーカーは、日々の入出庫のたびに発生する棚番管理のエクセル入力と倉庫整理にかかる工数、毎月末の簡易棚卸や4半期ごとの棚卸に要する時間、実在庫とシステム在庫の差異による課題を抱えていました。
これらの問題を解決するために、在庫管理システムと連動するハンディターミナルを導入し、エクセルでの手入力を不要にすることで、年間約200時間の棚卸工数を削減し、在庫と棚番を正確に把握できるようになりました。また、2人1組で行っていた入出庫作業は、1人で完結するようになり、省人化にも成功しています。
参考：【医薬品/在庫管理システム】年間200時間の工数削減！棚番管理の脱エクセルで棚卸・入出庫の手入力が不要になった効果とは
エクセル手作業の工数を420時間削減した事例
ある大手自動車部品メーカーは、エクセル等で行っていた在庫管理から在庫管理システムを導入し、入出庫と在庫管理のシステム化に成功しました。その結果、エクセルでの入出庫情報の入力作業が激減したことで、年間420時間の工数を削減しました。また、棚卸の手間も大幅に減り、全在庫品あわせて560時間の棚卸工数が削減できる見込みとなっている。
参考：【在庫管理システム】複数拠点の在庫を見える化！ハンディ端末の活用で棚卸工数560時間削減のインパクトも
在庫管理システム導入を失敗させない3つのポイント
在庫管理システムの導入に際しては、失敗のリスクも伴います。在庫管理システムの導入に成功し、最大限の効果を得るために重要な3つのポイントを解説します。
システムの運用ルールを決める
在庫管理システムを導入する際、システムの運用ルールを明確にすることが非常に重要です。このルールには、データの入力方法、アクセス権限の設定、システムの定期的な監査方法などが含まれます。運用ルールを事前に決定し、従業員に徹底することで、システムの効果を最大化し、ミスや不正使用を防ぐことができます。
既存システムと連携できる在庫管理システムを選ぶ
新しい在庫管理システムを導入する際は、既存のシステムやプロセスとの連携が可能かどうかを検討する必要があります。連携がスムーズに行えるシステムを選択することで、データの一貫性を保ち、作業の効率化を実現します。また、システム間の互換性は、情報の正確な伝達と分析に欠かすことができないため、既存システムとの連携を考慮した在庫管理システムの選択が重要になります。
少しずつ導入し、現場に過度な負荷がかからないようにする
在庫管理システムを導入する際には、一度に全てを実装しようとするのではなく、段階的に導入を進めることがおすすめです。このアプローチにより、従業員が新しいシステムに慣れる時間を確保し、導入過程での混乱やストレスを最小限に抑えることができます。また、段階的な導入は問題点を早期に特定し、修正する機会を提供します。現場に合うかどうか事前に検証したい場合は、トライアルを利用できる在庫管理システムを選ぶと安心です。
在庫管理システムの選び方
自社に合う在庫管理システムを選ぶためには、企業の規模や特定のニーズに応じて最適なシステムを選択する必要があります。在庫管理システムを選ぶための基準と考慮すべきポイントを、大規模製造業と中小規模製造業に分けて解説します。
大規模製造業に適した在庫管理システム
大規模製造業では、複数の工場や供給チェーンを管理する必要があります。このような企業には、高度な機能を備えた在庫管理システムが求められます。例えば、自動化された在庫追跡、統合された供給チェーン管理、予測分析機能などです。大規模な製造プロセスや複雑な供給網を持つ企業が、自社のニーズに合致する在庫管理システムを選択する際には、システムのスケーラビリティ、統合性、カスタマイズの容易さ、技術サポートの質などの項目を考慮することが重要になります。
中小規模製造業に適した在庫管理システム
中小規模製造業の場合、運用の簡易性、コスト効率、使いやすさが重視されます。小規模ながらも効率的な在庫管理を実現するためには、誰でも利用しやすいインターフェース、必要最低限の機能を備えたシステムが適しています。また、低コストで導入可能なシステム選びや、柔軟性とカスタマイズの重要性も考慮すべきポイントとなります。導入後に自社の運用が変わっても、システム側が柔軟に対応できれば、長く使い続けられるからです。
特に、クラウド型の在庫管理システムは、導入コストが低く、導入後も柔軟なカスタマイズがしやすいメリットがあります。リスクを抑えて在庫管理システムを導入したい中小・中堅製造業と相性がいいシステム形態といえます。
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