セル生産方式とは ライン生産方式との違いや種類、向いている業種を解説
公開日:2025年03月21日
最終更新日:2025年03月21日

多品種少量生産の需要が高まる中、柔軟な生産体制を実現する「セル生産方式」が注目されています。さらに、ライン生産とセル生産方式のハイブリッド型ともいえる「ダイナミックセル生産方式」という新しい手法も生まれています。
本記事では、セル生産方式の基本概念からライン生産方式との違い、さらに代表的な種類について詳しく解説します。また、セル生産方式のメリット・デメリットやどのような業種に適しているのかも紹介します。
セル生産方式とは
セル生産方式とは、作業者が一つの作業セル内で製品の組み立てや加工を行う生産方式です。作業者が多能工となることで、生産の柔軟性が向上するため、小ロット生産や多品種少量生産に適しています。
ライン生産方式は複数人が流れ作業で製造するのに対し、セル生産方式では作業者がセル内で複数の工程を担当する点が異なります
また、セル生産方式の最適化には、IE(インダストリアル・エンジニアリング)手法が不可欠です。IEによる動作分析やレイアウト分析など、科学的分析に基づく継続的な改善で、セル生産方式の生産性を最大化できます。
セル生産方式とライン生産方式との比較
セル生産方式とライン生産方式の違いを表にまとめると以下のようになります。
セル生産方式 | ライン生産方式 | |
特徴 | 1人または少人数で製品や仕掛品を完成させる | 各工程を分担し、流れ作業で製品を完成させる |
適した製品 | 多品種少量生産 | 少品種大量生産 |
作業の柔軟性 | 高い | 低い |
設備配置 | U字型や島型に配置 | 直線型に配置 |
生産効率 | 低い | 高い |
導入コスト | 低い | 高い |
セル生産方式は、1人または少人数で製品を完成させる方式で、多品種少量生産に適しており、柔軟な対応が可能です。一方、ライン生産方式は、作業を工程ごとに分担し、流れ作業で大量生産を行う方式で、生産効率が高い反面、柔軟性に欠けます。
セル生産方式の種類<生産レイアウトで分類する場合>
セル生産方式にはさまざまな種類があり、設備の配置や技術構成の違いから分けると以下6種類に大別できます。
- 直線型セル生産方式
- U字型セル生産方式
- 並列型セル生産方式
- 1人完結型生産方式
- ロボット・協働型セル生産方式
- フレキシブルセル生産方式
それぞれの特徴について解説します。
直線型セル生産方式
直線型セル生産方式は、作業場所を直線的に配置し、作業者が順番に工程を進める方式です。作業の流れが単純で理解しやすく、動線の無駄を抑えやすい点が特徴です。比較的単純な工程に適しており、作業の標準化が容易です。
U字型セル生産方式
U字型セル生産方式は、作業エリアをU字型に配置します。作業者の移動距離を抑え、効率的な作業が可能になります。省スペースでの運用が可能で、複数の作業者が協力して効率よく工程を進めることができます。小ロット生産に適した方式です。
並列型セル生産方式
並列型セル生産方式は、同じ製品や異なる製品を並列に生産できるように複数のセルを配置する方式です。需要の変動に対応しやすく、生産の柔軟性が向上します。また、各セルで異なる作業を同時進行できるため、効率的な運用が可能です。
1人完結型生産方式
1人完結型生産方式は、一人の作業者が製品の組み立てを最初から最後まで行う方式です。作業の習熟度が向上しやすく、品質のばらつきを抑えることができます。また、責任の所在が明確になるため、不良品の発生率を低減できます。ただし、作業者には高いスキルが求められます。
ロボット・協働型セル生産方式
ロボット・協働型セル生産方式は、作業者とロボットが協力して生産を行う方式です。ロボットが単純作業を担当し、作業者が複雑な工程を担うことで、生産効率が向上します。特に、人手不足の解消や労働環境の改善、省人化が求められる現場での活用が進んでいます。
フレキシブルセル生産方式
フレキシブルセル生産方式は、生産状況や需要に応じてセルの配置や作業内容を柔軟に変更できる方式です。多品種少量生産に適しており、急な受注変動にも迅速に対応できます。自動化設備やデジタル技術を活用することで、さらなる生産性向上が期待されています。
セル生産方式の種類<作業の進め方で分類する場合>

セル生産方式には、作業者の動きや作業の進め方で分類する場合もあります。作業の進め方で分類すると、セル生産方式は4種類あります。
- 1人方式
- 分業方式
- 巡回方式
- インライン方式
1人方式
1人方式とは、一人の作業者が一製品の全工程(組立から検査まで)を担当するセル生産方式です。「1人セル」とも呼ばれます。
生産全体を一人で把握できるため、作業者の熟練度や品質管理意識の向上が期待できます。作業の切り替えがしやすいため、多品種少量生産にも向いています。ただし、作業者が習熟するまでの教育コストは高く、作業負荷が大きくなりやすい点は注意が必要です。
分業方式
分業方式では、セル内で複数の作業者がそれぞれ特定の工程を分担し、1つの製品を仕上げます。ライン生産方式を、セル内に凝縮したようなイメージです。
分業方式のメリットは、ライン生産方式のように、作業の標準化や教育がしやすく、生産性を向上しやすい点です。さらに、ライン生産方式より小さいセル単位で生産するため、柔軟性もあります。しかし、各作業者の業務領域は狭く、習熟度が上がりにくいため、作業者のスキル面が原因で柔軟性が下がるケースがあります。
巡回方式
巡回方式では、一人または少人数が複数の作業工程を順番に回って作業するセル生産方式です。1人方式と分業方式の中間に位置します。
作業者が複数工程を担当するため、スキルの幅が広がりやすく、人員配置も柔軟に対応しやすいメリットがあります。ただし、そのためにはやはり作業者が多能工スキルを身につける必要があります。また、工程のバランスを取る必要があるため、設計や生産管理の難易度はやや上がります。
インライン方式(直列流し方式)
インライン方式は、ベルトコンベアの流れに沿って工程順の作業ステーションを並べ、部品や製品を順に流して組み立てる方法です。従来のライン生産に近いですが、セル生産の一形態としても応用されます。
インライン方式のメリットは、工程が明確で生産管理がしやすい点です。タクトタイムの管理もしやすいため、生産効率を上げやすい方式といえます。ただし、工程間の不均衡や、作業者感の連携ミスなどが生産全体に影響を与えやすいため、正確な生産管理が求められます。また、レイアウトが変更しにくいため、多品種対応にも不向きといえます。
セル生産方式のメリット

セル生産方式には主に以下の3つのメリットがあります。
少人数で多品種少量生産が可能
セル生産方式では、一つの作業グループが製品の組み立てを完結できるため、少人数でも生産が可能です。また、一つのセルで複数の製品に対応できるため、多品種少量生産に適しています。
従来のライン生産では、異なる製品ごとにラインの変更が必要ですが、セル生産では作業者が柔軟に対応できるため、頻繁な品種変更にも対応しやすいのが特徴です。
柔軟性が高い
セル生産方式は、作業者が複数の工程を担当するため、状況に応じて作業の割り振りを変更できます。これにより、生産計画の変更や急な注文にも対応しやすくなります。
従来のライン生産では一部の工程が停止すると全体に影響が及びますが、セル生産では独立したユニットごとに生産が行われるため、部分的な調整が可能です。
導入コストが安い
セル生産方式は、大掛かりな設備投資が不要なため、比較的低コストで導入できます。ライン生産では長いコンベアや専用の機械が必要ですが、セル生産では作業台や工具があれば開始できるため、初期投資を抑えられます。
また、作業スペースもコンパクトに収めることができ、小規模な工場や限られたスペースでも導入しやすいです。
セル生産方式のデメリット
一方で、セル生産方式には以下の3つのデメリットがあります。
工程管理の複雑化
セル生産方式では、一人の作業者が複数の工程を担当するため、作業内容が複雑になりやすいです。ライン生産では特定の作業に集中できるのに対し、セル生産では複数の工程を管理しながら進める必要があります。
そのため、作業手順の標準化や管理方法を工夫しないと、作業ミスや効率の低下につながる可能性があります。
高い育成コスト
セル生産では作業者が多様なスキルを持つ必要があるため、教育や訓練に時間とコストがかかります。ライン生産では単純な作業を繰り返すため短期間で習熟できますが、セル生産では複数の工程を習得する必要があり、育成期間が長くなります。また、高い技術力を持つ人材の確保も課題になりがちです。
自動化しにくく、大量生産には向かない
セル生産方式は人が中心となる生産方式であるため、自動化が難しく、大量生産には適していません。ライン生産では機械やロボットの導入で生産性を上げられますが、セル生産では作業者のスキルや手作業に依存する部分が多く、効率化が限られます。そのため、大量生産を必要とする場合は、セル生産よりもライン生産の方が適しています。
セル生産方式が向いている業種

セル生産方式の特徴から、製造業では次のような業種で採用されています。
多品種少量生産の業種
セル生産方式は、一つのセルで異なる製品を生産できるため、多品種少量生産を行う業種に適しています。例えば、精密機器や医療機器の製造業では、少量ずつ多くの品種を生産する必要があり、セル生産の柔軟性が活かされます。頻繁な仕様変更や特注品の対応が求められる場合でも、生産ラインの大規模な変更をせずに対応できる点がメリットです。
カスタマイズ性が求められる業種
顧客ごとに仕様が異なる製品を扱う業種では、セル生産方式が適しています。例えば、オーダーメイドの家具や特注部品の製造では、一つ一つの製品に異なる加工が必要になるため、柔軟な作業が求められます。セル生産方式では作業者が複数の工程を担当できるため、細かい調整を加えながら生産を進めることが可能です。
高付加価値製品を扱う業種
高い品質や精度が求められる製品を扱う業種では、セル生産のメリットが活かされます。例えば、高級時計や工芸品などの製造では、作業者が一貫して製品を仕上げることで、細かい品質管理がしやすくなります。ライン生産のように作業を細分化すると品質のバラつきが生じやすいため、セル生産のような職人技を活かせる方式が適しています。
需要変動に対応する必要がある業種
需要の変動が大きい業種では、柔軟に生産計画を調整できるセル生産方式が向いています。例えば、季節によって需要が変わるアパレル業界やイベント関連製品の製造業では、生産量を迅速に変更する必要があります。また、セル生産では、作業者の配置や工程を素早く調整できるため、急な受注増や品種変更にも対応しやすいです。
少人数で運営可能な業種
小規模な工場や人手が限られている業種では、セル生産方式が効果的です。例えば、スタートアップ企業や職人技を活かした製造業では、大規模な生産ラインを導入する余裕がありません。セル生産なら、限られた人数でも効率的に生産を進めることができるため、設備投資を抑えながら運営できるメリットがあります。
近年注目される「ダイナミックセル生産方式」
昨今は、セル生産方式のデメリットをIT技術によって補完させた「ダイナミックセル生産方式」も注目を集めています。
ダイナミックセル生産方式とは、ライン生産方式とセル生産方式を融合し、生産の効率と柔軟性を双方向上する方式です。各工程ごとのセルを繋げることでラインを構成し、さらに各生産設備やロボットをクラウド上で繋ぎます。このIoT活用で、リアルタイムな工程変更やライン組換が可能となり、ライン生産の生産性とセル生産の柔軟性を実現できます。
また、ダイナミックセル生産方式には、品質の均一化というメリットもあります。各セル内でロボット等を活用することで、従来のセル生産の課題であった作業者のスキル依存からの脱却にも繋がります。
このように、量産と多品種生産の両立を目指す企業にとって、ダイナミックセル生産方式は効果的な手法の一つといえます。将来的にダイナミックセル生産方式を目指すには、IoTやAIの導入でスマートファクトリー化を進めることをおすすめします。段階的にシステム導入を進めていくと、現場の負荷を考慮できるため失敗しづらくなります。
参考記事:スマートファクトリーとは?工場はどう変わる?失敗しない導入方法を事例付きで解説
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