定期発注方式が向いている在庫は?メリット・デメリット、定量発注方式との違いまで解説
公開日:2024年08⽉29⽇
最終更新日:2024年09⽉06⽇
製造業における在庫管理手法の一つに「定期発注方式」があります。定期発注方式の基本からメリット・デメリット、具体的な計算方法までを詳しく解説します。また、定量発注方式との違いや、どちらが自社に適しているかを見分けるポイントも紹介します。さらに、在庫管理システムでより効率的な在庫管理を実現する方法までお伝えします。
定期発注方式とは
定期発注方式は、一定の期間ごとに発注を行う在庫管理方法です。この方式は、需要の変動が大きい商品や単価の高い商品に適しています。定期発注方式を採用することで、ムダのない在庫管理体制を維持することができます。
定期発注方式のメリット
定期発注方式には、次の3つのメリットがあります。
適正在庫を保ちやすい
定期発注方式では、発注のタイミングが事前に決められているため、その時点での在庫数量に応じて発注量を調整することができます。例えば、生産計画に合わせて必要部品を定期的に発注することで、在庫切れや過剰在庫のリスクを最小限に抑え、適正在庫を適切に維持することができます。
その結果、過剰在庫を抱える必要がなくなるため、余分な保管スペースの確保も不要となり、棚卸工数などの管理コストの削減にも寄与します。 また、特に単価の高い仕入れ品の場合、適切な在庫レベルを維持することで、会社全体のキャッシュフローの改善にもつながります。
供給網が安定化する
定期的な発注において、発注数量に関する長期見通しを仕入先に共有すると、仕入先は必要な資材調達や製品生産の計画を立てやすくなります。不安定な発注や突発的な発注が常態化すると仕入先側の混乱を招きやすく、納期遅延や供給不足といったリスクが伴います。このようなリスクを低減することで、サプライチェーン間で安定的な仕入れが可能となります。特に、需要が変動しやすい商品において効果的です。
仕入先との信頼関係ができる
定期的かつ安定した取引を長期間にわたって継続することで、仕入先との間に信頼関係が構築されます。この信頼関係は、いざというときの突発的な発注や特別な対応をお願いする際にも有利に働きます。
さらに、長期的な取引が続くことで仕入れ先との交渉力が高まる場合もあります。これにより、価格交渉においても優位に立てる場合が多く、仕入れコストの削減や供給条件の改善も期待できます。
定期発注方式の問題点
一方で、定期発注方式には次のようなデメリットも存在します。
発注量を都度計算する手間が必要
発注タイミングを固定するかわりに、発注量を柔軟に調整できる定期発注方式では、発注のたびに発注量の計算が必要となります。最新の生産計画や正確な在庫量を見て、適正在庫を保てる数量を計算しなければならないため、発注工数が増えやすい発注方式です。
需要予測管理の手間が増える
定期発注方式では、発注タイミングが決まっているため、次の発注までに欠品しないよう正確な需要予測が不可欠です。しかし、需要予測が不正確な場合、発注量の見直しが頻繁に必要となることもデメリットの一つです。需要予測の精度が低いと、結果として在庫不足や過剰在庫が発生しやすくなります。
特に、需要予測から大きく逸脱した場合には、急な発注の調整や在庫の再配分が必要となり、仕入れ先と購買担当者にとって大きな負担となる可能性があります。
加えて、需要予測の誤りが続くと、仕入先との取引関係にも影響を及ぼす可能性があります。需要予測に基づかない急な発注変更が頻発すると、仕入先の生産計画に支障を及ぼすこともあります。その結果、納期遅延につながったり、追加コスト負担を求められるリスクもあります。
大幅な需要急変には対応できないこともある
定期発注方式では、予期せぬ需要の急増があった場合、仕入先の生産能力を超えてしまい、在庫不足に陥るリスクがあります。反対に、需要が急減した場合には、仕入先が過剰な在庫を抱えることになり、在庫の換金が難しくなり、キャッシュフローが悪化する可能性があります。また過剰在庫は保管コストの増加や在庫の経時劣化、さらには製品モデルチェンジによる製品ロスのリスクも高めてしまいます。
仕入れコストの上昇
定期発注方式では発注量の増減ができる一方、小ロットでの発注が増えると仕入れコストが上昇しやすくなります。発注ロットが小さくなると、仕入先での段取り替えコストが発生したり、運搬効率が悪化し、これらのコストが製品価格に転嫁されることもあるためです。また、配送料が別途かかる場合は、1個あたりにかかる送料も多くなります。
定期発注方式の計算方法
定期発注方式では、発注サイクル、平均需要量、安全在庫、発注時の在庫をもとに、次のような計算式で計算します。
発注量 = (発注サイクル × 平均需要量)+ 安全在庫 – 発注時の在庫量 – 発注残
各指標の計算方法は、以下のとおりです。
発注サイクル
発注サイクルは、定期的に発注を行うための間隔を指します。発注サイクルを設定することで、在庫管理業務の効率化と予測精度の向上が期待できます。この発注サイクルの長さは、企業の需要変動パターンや在庫回転率などを考慮してに応じて決定されます。
例えば、需要が安定している場合は、比較的長めの発注サイクルを設定することで、発注作業効率を高めることができます。一方で、需要が大きく変動する場合には、短めのサイクルを設定することで在庫の過不足を防ぎやすくなります。また、発注サイクルを定期的に見直しすることで、最適なサイクルを維持することも重要です。
平均需要量
過去の販売データや需要予測を基に、発注サイクルにおける平均需要量を算出します。一般的には、需要予測期間内の総需要量を発注サイクルで割ることで計算されます。
例えば、1ヶ月の総需要量が600個で、発注間隔が30日の場合、1日あたりの平均需要量は600個 ÷ 30日 = 20個となります。発注間隔が30日であれば、発注間隔内の平均需要量は20個 × 30日 = 600個となります。
安全在庫
安全在庫は、需要の変動や予期せぬ納期遅延に備えるための最低限の在庫量です。企業がサービスレベルを維持しながら、在庫不足のリスクを最小限に抑えるために不可欠です。安全在庫の適切な設定により、急な需要増加や供給の遅れにも柔軟に対応できるようになります。
さらに、季節的な長期休暇では、生産ライン操業停止や物流網の乱れなどを考慮して、安全在庫量を上積みするなどの取り組みも有効です。
定量発注方式との違い
定期発注方式と似た発注方法に「定量発注方式」というものがあります。定量発注方式と定期発注方式には、それぞれのメリットとデメリットが存在します。自社の在庫管理ニーズや運用環境に応じて、最適な発注方式を選ぶことが重要です。
定量発注方式 | 定期発注方式 | |
発注量 | 一定 | 発注の度に算出 |
発注タイミング | 不定期(発注点を下回ったとき) | 定期的 |
メリット | 管理がシンプル、発注工数が少ない | 需要変動に対応できる |
デメリット | 需要変動の対応が難しい | 発注量の計算が毎回必要 |
向いている発注品 | ・需要が安定した品物 ・単価が低い品物 | ・需要が変動しやすい品物 ・単価が高い品物 |
定量発注方式のメリット・デメリット
定量発注方式のメリットは、発注工数を最小限に抑えられることです。「在庫数が発注点を下回ったら一定数を発注する」というシンプルな管理方法なので、発注量の計算は原則不要です。しかし、需要変動が大きい品物だと、対応が難しい場合があります。
どちらが適しているかを見分けるポイント
定期発注方式と定量発注方式のどちらが適しているかを判断するポイントは、「需要変動の多さ」と「単価」です。
例えば、需要が安定している品物や在庫管理の手間を最小限に抑えたい場合は、定量発注方式が適しています。特に、単価が低く重要度の低い品物は、在庫管理や発注にかける工数を抑えるメリットが大きいといえます。
逆に、需要が変動しやすい場合や、高単価で在庫コストを最小限にしたい場合は、定期発注方式が適しています。発注のたびに発注量の計算をする手間をかけて、在庫金額を管理する必要がある品物におすすめです。
在庫の重要度の判断には、ABC分析が役立ちます。売上貢献度を分析し、在庫品を重要度ごとにA・B・Cにグループ分けすることで、「重要度の高いAグループの品物は、定期発注方式でしっかり発注管理する」「重要度の低いCグループの品物は、定量発注方式で管理工数を抑える」などの判断が可能になります。
定期発注方式の最適な使い方
前述の通り、定期発注方式は、特に売上の多くを占める商品に向いています。また、需要予測の精度を上げたり、在庫管理システムを活用することで、さらに効果的な在庫管理が可能になります。
売上の多くを占める重要品で用いる
前述の通り、定期発注方式は、売上構成比率が高い重要品の管理に適しています。定期的に発注を行うことで在庫切れを防ぎ、発注のたびに発注量を調整することで適正在庫を保ちます。この方法により、販売機会の損失を避け、顧客満足度を高めることができます。
精度の高い需要予測を行う
定期発注方式を効果的に活用するためには、精度の高い需要予測が不可欠です。過去の販売データや市場の動向を分析し、正確な予測を行うことで、適切な発注量を決定することができます。これにより、過剰在庫や欠品のリスクを最小限に抑えることができます。
在庫管理システムを活用する
在庫管理システムを導入することで、リアルタイムで在庫状況を把握することが可能になります。これにより、発注量を正確に管理でき、業務効率の向上が期待できます。
在庫管理システムの効果
在庫管理システムの導入により、在庫管理の効率化と正確性は飛躍的に向上します。特に、定期発注方式を効果的に運用するためには、正確な現在庫量を把握し、適切な発注量を管理できるシステムが不可欠です。
在庫の見える化
在庫管理システムを導入することで、在庫の見える化が実現します。特に、ハンディーターミナルなどのIoT端末を用い、現場での在庫の動きもリアルタイムに更新すると、常に変動する在庫数を正確に把握できるようになります。
発注ミスの原因の多くは、実在庫数の把握ミスにあります。具体的には、以下のような実例があります。
- 直近の入荷実績が在庫管理表に反映されておらず、過剰発注してしまった
- 100個あると思っていた在庫のうち、実は30個が生産に引当済で、実質70個しか有効在庫がなく欠品してしまった
- 現場の在庫棚にある在庫量を見て発注したが、実は別のエリアにも在庫があり過剰在庫になっていた
在庫管理システムで在庫を見える化すると、上記のような在庫の動きや保管場所が可視化され、正確な在庫情報に基づき発注できるようになります。これにより、欠品や過剰在庫を防ぐことができます。
倉庫へ実在庫数を確認しに行く手間がなくなる
ハンディーターミナルなどで現場の在庫情報を常に更新すると、パソコンやタブレット上でそのデータを参照できるようになります。発注担当者は、現場に実物在庫を確認しに行かずとも、正確な在庫数を把握できるようになります。
紙やエクセルでの在庫管理を行う企業では、発注担当者が倉庫に在庫数を数えに行くという作業がよく発生します。最新の在庫情報を把握するには、現物確認が最も確実だからです。特に、定期発注方式では、発注量を細かく計算するために現物在庫の把握が必要になります。
システムによる在庫管理を行うと、現場での実物確認をせずに在庫数を把握できます。複数の支店や倉庫を持つ企業にとっても、問い合わせ工数の削減効果が見込めます。
在庫コストの削減
リアルタイムで在庫状況を把握し、適切な発注タイミングを決定することで、不要な在庫を削減できます。これにより、保管コストや廃棄コストの削減が期待できます。
発注業務の自動化
在庫管理システムや、在庫管理機能がある生産管理システムには、発注機能を持つものもあります。定期発注方式の一部業務も、システムでの自動化が可能です。
例えば、生産管理システム内の生産計画と在庫情報を一元管理すると、将来在庫の自動計算が可能になります。在庫が安全在庫に近づくタイミングで、当月の生産計画をふまえた発注量を検討するなど、定期発注方式にも役立てることができます。
データ分析による戦略的な意思決定
在庫管理システムや生産管理システムのデータが自動蓄積されることで、データに基づいた戦略的な意思決定が可能になります。過去の販売データや生産実績、在庫データを分析すると、需要予測の精度が向上し、発注計画を最適化できます。また、これらのデータは、在庫回転率やABC分析にも役立ちます。
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初期費用相場や選び方のポイントをチェック
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