在庫回転率を上げる方法を徹底解説!在庫回転期間との違いや計算式、適正在庫を保つコツとは?
公開日:2024年04⽉18⽇
最終更新日:2024年09⽉25⽇
製造業にとって在庫管理はとても重要です。過剰在庫は資金の固定化を招き、逆に欠品すれば機会損失が生じます。そこで重要な指標となるのが「在庫回転率」です。この数値が適正であれば、キャッシュフローを確保しつつ、スムーズな製品供給も可能になります。在庫回転率の意義から計算方法、基準値、改善ポイントまで、製造現場で活用すべき在庫回転率の活用術を徹底解説します。
在庫回転率とは何か
在庫回転率とは、一定期間に販売された製品の在庫が、どれくらい入れ替わったかを表す指標です。企業の在庫管理の効率を示す重要な数値といえます。高い在庫回転率は、在庫が効率的に運用されていることを意味し、数値が低いと在庫が滞っている可能性があります。
在庫回転率は、原価総額を平均在庫額で割った数値で表すことが多いですが、在庫数量から計算する方法もあります(詳しくは後述)。
在庫回転率が重要な理由
在庫は企業が製品を販売するために不可欠ですが、過剰な在庫は資金の固定化につながります。適切な在庫回転率を把握することで、需要に見合った適正在庫を維持し、資金効率を高めることができます。
在庫回転期間との違い
在庫回転率と似た言葉で、「在庫回転期間」という指標もあります。在庫回転期間とは、一定期間の売上原価を平均在庫額で割って算出される日数です。回転率が高ければ期間は短くなり、低ければ期間は長くなります。在庫回転率と期間はそれぞれ異なる指標ですが、関連性があります。
在庫回転率の計算方法
在庫回転率を算出する方法には、金額ベースと個数ベースの2種類があります。それぞれ、売上原価や売上数量をもとに計算します。企業や製品の特性に合わせて使い分ける必要があります。
企業によっては金額と個数の両方の在庫回転率を並行して管理することで、より詳細な在庫分析が可能となります。製造業の場合は、原材料・仕掛品・製品在庫でそれぞれ回転率を算出するのが一般的です。
金額での計算方法
在庫回転率(金額ベース)は、売上原価を平均在庫額で割って算出します。計算式は以下のとおりです。
在庫回転率【金額ベース】=期間売上原価÷期間平均在庫金額
計算に使うのが、売上金額ではなく、「売上原価」である点に注意が必要です。売上原価とは、製品を売った際に発生する直接的な費用で、原材料や労務費などが含まれます。売上原価を使用する理由は、平均在庫金額に対して売上金額で計算すると、販売金額の影響を受けてしまうからです。純粋な在庫管理の効率を測るため、売上原価を用います。
売上原価は、期首の在庫金額と期間仕入合計額から、期末の在庫金額を引くことで求められます。期首から期末の1年間の売上原価を求める場合は、以下の計算式となります。
期間売上原価=期首在庫金額(棚卸高)+期間仕入金額ー期末在庫金額(棚卸高)
例:期首在庫が400万円、当期仕入金額が4,200万円、期末在庫が600万円だった場合
400万円+4,200万円ー600万円=4,000万円(売上原価)
平均在庫額は、期首と期末の在庫金額の平均値を使用します。この方法は、在庫の金額的な回転状況を把握するのに適しています。
平均在庫金額=[(期首在庫金額(棚卸高)+期末在庫金額(棚卸高)]÷2
例:例:期首在庫が400万円、期末在庫が600万円だった場合
(400万円+600万円)÷2=500万円(平均在庫額)
上記の場合、金額ベースの在庫回転率は以下のように求められます。
在庫回転率=4,000万円(期間売上原価)÷ 500万円=8
上記の場合、期間中に在庫が8回入れ替わったことがわかります。
個数での計算方法
在庫回転率(個数ベース)は、一定期間の売上数量を平均在庫数で割って計算します。平均在庫数も同様に期首と期末の在庫数の平均を用います。
在庫回転率【個数ベース】=期間売上数量÷期間平均在庫数
例:1年の売上数量1,500個、平均在庫数100個だった場合
1,500個÷100個=15
上記の場合、1年間の間に在庫が15回入れ替わったといえます。
原材料・仕掛品・製品在庫の在庫回転率の確認をおすすめする理由
製造業においては、原材料・仕掛品・製品在庫それぞれの在庫回転率を計算するのが望ましいと前述しました。その理由は、どの在庫の回転率が低いかで、取るべき対策を判断しやすくなるからです。
特に在庫回転率が低くなりやすいのは、製造途中段階の仕掛品です。特に、製造リードタイムが長い製品は、仕掛品が滞留しやすくなります。たとえば、生産計画の変動や原材料の入荷遅れ、設備トラブルなどで次工程に進めなくなると、生産途中の仕掛品は滞留することになります。
在庫回転期間の計算⽅法
在庫回転率を求めておくと、在庫回転期間も簡単に計算できます。在庫回転期間は、在庫が1回転するのに何日かかるかを示す数値です。在庫回転率が高いほど在庫回転期間は短くなり、在庫が適正に管理されていることがわかります。
在庫回転期間は以下の式で求められます。
在庫回転期間 = 期間日数 ÷ 在庫回転率
例えば、1年の在庫回転率が4回転であれば、在庫回転期間は365÷4=91.25日となります。つまり在庫は約3ヶ月で一回転していることになります。1年間で算出することが一般的です。
製造業における在庫回転率の基準
製造業における適正な回転率の目安は、業界や企業により異なります。参考までに、2007年に経済産業省が調査した、従業員規模300名未満の中小製造業の在庫回転率を紹介します。
業界 | 在庫回転率 |
プラスチック製品 | 17.0回 |
ゴム製品 | 16.7回 |
食料品 | 16.6回 |
パルプ・紙・紙加工品 | 16.2回 |
繊維工業 | 7.1回 |
衣服・その他の繊維製品製造 | 7.3回 |
参考:経済産業省「商工業実態基本調査報告書」4.中小企業の商品(製品)回転率
ちなみに、上記調査によると、製造業全体の在庫回転率は11.1回です。大手企業は10.5回、中小企業は12.6回と、中小企業の方が在庫回転率は高い傾向にあります。この回転率の差は、中小企業が部品を製造し、大手企業が完成品を製造する構造が関係していると分析されています。
在庫回転率を把握するメリット
在庫回転率は単なる数値ではなく、企業の経営状況を示す重要な判断基準です。適切に在庫回転率を管理することで、以下のようなメリットがあります。
在庫の動きの可視化
在庫回転率を定期的に算出し、推移を追うことで、在庫の動きを的確に把握できます。特に製造業においては原材料・仕掛品・製品のそれぞれの在庫の回転状況を確認する必要があり、滞った在庫の有無が一目でわかります。
顧客の需要の把握
製品在庫の回転率から、市場の需要動向を読み取ることができます。回転率が高ければ需要が高く、低ければ需要が落ち込んでいる可能性があります。
コスト削減
在庫回転率を上げることで、在庫保有コストを削減できます。過剰在庫は倉庫スペースの確保や人件費など、多くのコストを生みます。回転率を高く保つことで、必要最小限の在庫を維持することができます。
<H2>在庫回転率を上げるポイント</H2>
在庫回転率を上げるためには、以下のようなポイントがあります。
<H3>在庫回転率の目標設定</H3>
まずは自社の製品特性や業界動向を踏まえ、適正な在庫回転率の目標値を設定することが重要です。目標値を決めずに対策を考えても、成果が分からず無駄な努力に終わってしまいます。
在庫回転率の目標は、以下の計算で求めたものを参考にできます。
在庫回転率の目標(目安)=年間の目標売上金額 ÷ 目標平均在庫金額
たとえば、売上目標6,000万円の製品で、平均在庫金額を500万円に抑えたい場合、目標の在庫回転率は6,000万円 ÷ 500万円=12回となります。つまり、月に1回は在庫を回したい、という目安を持つことができます。
リードタイムの短縮
製品の製造リードタイムを短縮することで、仕掛品在庫の回転率を上げられます。生産プロセスの見直しや改善を行い、無駄な工程を除くことがポイントです。
在庫状況の⾒直し
定期的に在庫状況を確認し、過剰在庫や長期滞留在庫がないかチェックします。不要な在庫は早期に処分し、在庫水準を適正化する必要があります。
販売価格の見直し
製品の販売価格を見直すと、売れ行きが上がり在庫回転率も改善する可能性があります。ただし、収益が下がるリスクがあるため、慎重に検討する必要があります。
在庫回転率の悪い製品の整理
長期にわたり在庫回転率が低迷する製品は、生産や販売を見直すか、場合によっては市場からの撤退も検討してみることをおすすめします。流動性が悪い製品を抱え続けると、経営の圧迫にも繋がりかねません。
在庫管理システムの導入
在庫回転率を把握するためには、製品や工程ごとの在庫数・在庫金額を正確に把握する必要があります。在庫管理システムを導入すれば、リアルタイムで在庫状況を把握でき、適正な在庫管理や発注指示が可能になります。
在庫回転率と適正在庫の関係
適正在庫とは、過不足なく需要に見合った在庫水準のことです。在庫回転率と適正在庫は密接に関係しており、適正な在庫水準を維持するためには、在庫回転率を上げることが重要です。
在庫回転率をあげて適正在庫を保つ方法
過剰在庫は資金の固定化につながり、欠品すれば機会損失が発生するため、適正在庫を確保することが必要です。そのためには、以下のようなポイントがあります。
- 需要予測の精度向上により、適正な発注量を把握する
- 製造リードタイムを短縮し、余剰在庫を抑える
- 定期的に在庫状況を確認し、不要な在庫を早めに処分する
- 販売促進策を考え、製品の回転率を高める
- 在庫管理システムを導入し、適時適切な発注が可能になる
適正在庫を保つのが難しい理由
適正在庫の維持を目指していく中で、適正水準を保つことは簡単ではありません。適正在庫を保つのが難しい理由は、主に3つあります。
需要の変動
製品の需要は常に変動しており、その予測は簡単ではありません。需要を正確に読み切れないと、過剰在庫や欠品リスクが生じてしまいます。特に季節変動の大きい製品では、需要の振れ幅が大きくなります。
リードタイムの変動
仕入れや製造のリードタイムにも変動があり、発注タイミングの遅れなどで在庫が不足してしまうリスクがあります。特に海外からの調達では、輸送の遅延など予期せぬ事態が起こりがちです。
製造ロットの影響
ロット生産を行う場合、ロットサイズが大きければ、在庫が一時的に増えてしまうことになります。最小ロットを探すのも一つの対策ですが、コストアップにも繋がるため、将来の需要などをふまえた判断が必要です。
高い在庫回転率を維持している企業の事例
常に高い在庫回転率を実現している企業の、在庫管理方法の例を紹介します。
需要予測の精度向上に注力
自動車部品メーカーのA社は、AIを活用した需要予測モデルを導入しています。過去の販売実績に加え、自動車メーカーの生産計画なども加味し、精密な予測が可能になりました。これにより、過剰在庫や欠品リスクを最小限に抑えられるようになりました。
短サイクル・小ロット生産を実現
電子機器メーカーのB社は、セル生産方式の導入により、製造リードタイムの短縮に成功しました。また、最小ロットでの生産が可能になり、在庫水準の適正化も図れるようになりました。
在庫管理の徹底とシステム活用
食品メーカーのC社では、製造から販売までの一元的な在庫管理システムを導入しています。全ての拠点の在庫をリアルタイムで把握でき、発注のタイミングを的確に捉えられるようになりました。また、賞味期限の近い製品を優先的に出荷する仕組みも整備し、滞留在庫の削減にも努めています。
22種類の生産管理システムをランキングで比較
初期費用相場や選び方のポイントをチェック
生産管理システムをそれぞれの特徴や初期費用相場などで比較したい場合は、「生産管理システムランキング」も是非ご覧ください。生産管理システムは、自社の製品・生産方式・企業規模などに適したものを導入しないと、得られるメリットが限定されてしまいます。事前適合性チェックや生産管理システムを選ぶ前に押さえておきたいポイントも解説していますので、製品選びの参考にしてみてください。