在庫回転率を上げる方法を徹底解説!在庫回転期間との違いや計算式、適正在庫を保つコツとは?
公開日:2024年04月18日
最終更新日:2025年01月22日

「在庫回転率」は、過剰在庫による資金の固定化や、欠品による機会損失を対策するために重要な指標です。在庫回転率を適正に管理すれば、キャッシュフローを確保しつつ、スムーズな製品供給が可能になります。
本記事では、在庫回転率の定義や計算方法、基準値、改善方法について解説します。後半では、具体的な在庫回転率の分析手法や、他社事例も紹介します。
在庫回転率とは
在庫回転率とは、一定期間に販売された製品の在庫が、どれくらい入れ替わったかを表す指標で、企業の在庫管理の効率を示します。在庫回転率の数値が高いと、在庫が効率的に運用されていることを意味し、数値が低いと在庫が滞っていることを示します。
在庫回転率は、原価総額を平均在庫額で割った数値で表すことが多いですが、在庫数量から計算する方法もあります。
在庫回転率が重要な理由
在庫は企業が製品を販売するために不可欠ですが、過剰な在庫は資金の固定化や保管費の発生につながります。適切な在庫回転率を把握することで、需要に見合った適正在庫を維持し、資金効率を高めることができます。
在庫回転期間との違い
在庫回転率と似た言葉で「在庫回転期間」という指標もあります。在庫回転期間は、一定期間の売上原価を平均在庫額で割って算出される日数です。
在庫回転率が高ければ在庫回転期間は短くなり、低ければ在庫回転期間は長くなります。在庫回転率と在庫回転期間はそれぞれ異なる指標ですが、関連性があります。
在庫日数との違い
また、別の在庫の状況を示す指標に「在庫日数」があります。在庫日数は、現在保有している在庫がどれくらいの期間で消費または販売されるかを示す指標です。在庫日数は、在庫の総量を1日あたりの平均販売量や消費量で割ることで算出されます。
在庫日数が短いほど、在庫が効率的に回転していることを意味します。在庫日数が長い場合は、過剰在庫や需要予測の誤り、資金効率の低下などが懸念されます。
→ 在庫日数とは?在庫回転率との違いや計算式、おすすめの管理方法を紹介
在庫回転率の計算方法

在庫回転率を算出する方法には、金額ベースと個数ベースの2種類があります。それぞれ、売上原価や売上数量をもとに計算します。企業や製品の特性に合わせて使い分ける必要があります。
企業によっては金額と個数の両方の在庫回転率を並行して管理することで、より詳細な在庫分析が可能となります。
製造業の場合は、原材料・仕掛品・製品在庫でそれぞれ回転率を算出するのが一般的です。
金額での計算方法
在庫回転率(金額)は、一定期間の売上原価を平均在庫額で割って算出します。決算書を用いるため、決算年度単位で算出するケースが多いと言えます。
計算式は以下で表せます。
在庫回転率(金額ベース)の計算式
ここで計算に使うのが「売上金額」ではなく「売上原価」である点に注意が必要です。売上原価は、製品を売った際に発生する直接的な費用で、原材料や労務費などが含まれますが、利益や損失は含めません。
売上原価を使用する理由は、平均在庫金額に対して売上金額で計算すると、販売金額の影響を受けるためです。純粋な在庫管理の効率を測るため、売上原価を用います。
売上原価は、期首の在庫金額と期間仕入合計額から、期末の在庫金額を引くことで求められます。
「期間売上原価」の求め方
期首から期末の1年間の売上原価を求める場合は、以下の計算式となります。
例えば、期首在庫が400万円、当期仕入金額が4,200万円、期末在庫が600万円だった場合は、400万円+4,200万円ー600万円=4,000万円が売上原価となります。
「平均在庫額」の求め方
一方、平均在庫額は、期首と期末の在庫金額の平均値を使用して計算します。
例えば、期首在庫が400万円、期末在庫が600万円だった場合、500万円が平均在庫額になります。
上記で求めた「期間売上原価4000万円」と「平均在庫額が500万円」から在庫回転率を求めると、4000万円÷500万円=8、となります。つまり、1年間で8回在庫が入れ替わったことになります。
個数での計算方法
在庫回転率(個数)は、一定期間の売上数量を平均在庫数で割って計算します。平均在庫数も同様に期首と期末の在庫数の平均を用いることが多いですが、任意の期間で計算することもできます。計算式は以下の通りです。
在庫回転率(個数ベース)の計算式
1年の売上数量1,500個、平均在庫数100個だった場合は在庫が15回入れ替わったといえます。
在庫回転率の計算方法による使い分け
在庫回転率を金額ベースと個数ベースで算出する方法の使い分けは、在庫管理の目的や製造工程の特性に応じて行います。
金額ベース:キャッシュフロー分析による経営判断
金額ベースの在庫回転率は、主に決算書をもとに計算するため、財務健全性の確認や経営判断に用いられるケースが多い傾向にあります。
在庫回転率は、経営者目線だと「効率よく販売できたか=収益性・キャッシュフローが良いか」を判断する指標となります。在庫回転率が高いと、効率よく売上を立てて現金化できていると判断できます。一方、在庫回転率が低くなってきていると、在庫滞留により資金が在庫に固定化され、資金繰りが悪化していると言えます。
金額ベースでの計算であれば、在庫数を確認しなくても在庫回転率を把握し、財務状況を確認できます。
個数ベース:在庫管理の分析・改善
一方、個数ベースの在庫回転率は、在庫管理の実務担当者が在庫状況を分析し、改善するために利用しやすい指標です。例えば、在庫切れを防ぐための補充頻度や安全在庫水準の見直しを行う際に、個数ベースで算出する方法が役立ちます。
製造業では部品の消費や生産スピードを正確に把握することが重要なため、個数ベースの指標を用いることで、現場レベルでの正確な在庫管理ができます。
製造業の在庫回転率の適正値
在庫回転率の適正値は在庫の種類や製品の特性によって変わりますが、一般的な指標として定められているものを紹介します。
製造業における品種ごとの適正な在庫回転率の目安は、以下のようになります。2007年に経済産業省が調査した、従業員規模300名未満の中小製造業の在庫回転率を表しています。
業界 | 在庫回転率 |
プラスチック製品 | 17.0回 |
ゴム製品 | 16.7回 |
食料品 | 16.6回 |
パルプ・紙・紙加工品 | 16.2回 |
繊維工業 | 7.1回 |
衣服・その他の繊維製品製造 | 7.3回 |
参考:経済産業省「商工業実態基本調査報告書」4.中小企業の商品(製品)回転率
上記調査によると、製造業全体の在庫回転率は11.1回です。大手企業は10.5回、中小企業は12.6回と、中小企業の方が在庫回転率は高い傾向にあります。この在庫回転率の違いは、中小企業が部品を製造し、大手企業が完成品を製造する構造が関係していると分析されています。
在庫回転率の相場は、上記のようなレポート以外に、実際の企業の財務諸表からも計算可能です。例えば、同業の上場企業が公開している財務諸表から計算すると、競合分析ができます。
在庫回転率を把握する目的とメリット

在庫回転率を把握する目的は、在庫の運用状況を定量的に把握し、経営の効率化を図ることです。在庫回転率を正確に把握することにより、以下のようなメリットが得られます。
在庫最適化による過剰在庫・欠品防止
在庫回転率を参考に在庫管理を最適化することで、過剰在庫による在庫滞留や欠品防止に繋がります。
過剰在庫を防ぎ、不足するリスクを最小限に抑えることで、保管コストや廃棄リスクを低減できます。また、需要予測と連携し、適切な生産量や発注量を設定することで、効率的な在庫状況を維持できます。
需要予測による販売・生産の戦略策定
在庫回転率を分析することで、需要の傾向や製品の人気度を把握でき、適切な販売計画や生産計画を立案できます。
例えば、在庫回転率が低い製品の生産量を調整することで、在庫の無駄を減らし、利益率を向上できます。在庫回転率が高い製品は需要も高いと言えるため、生産ロットを増やすことで製造コストの引き下げも検討できる可能性があります。
資金効率の向上
在庫回転率の改善は、資金効率の向上に直結します。在庫回転率が高くなれば、在庫に固定される資金が少なくなり、他の成長施策に資金を活用できます。
また、在庫管理コストの削減にもつながります。資金効率が向上することで、財務状況の安定化や投資範囲の拡大が期待できます。
顧客満足度の向上
在庫を適切に管理することで、顧客の注文に迅速に対応できるため、欠品のリスクが減り、顧客の信頼を得ることができます。また、新商品の展開スピードを早めることで、顧客のニーズに素早く応えることが可能です。
顧客満足度の向上は、リピーターの増加や口コミによる新規顧客獲得にもつながり、企業の競争力を強化します。
在庫回転率を上げる方法

具体的な在庫回転率を向上させるための施策を、売上と平均在庫の観点からご紹介します。計算式を見ると分かるように、売上を上げ、在庫額を低減することで在庫回転率の数値は上がります。
期間売上を上げる施策
製造業において期間売上を増加させる施策の代表例は以下のとおりです。
- 販売促進キャンペーンの実施
- ターゲット顧客層へのマーケティング強化
- 製品ラインナップの見直し
- オンライン販売の活用
- 新規顧客の獲得施策
BtoC製品を製造している場合は、限定割引などの販売促進キャンペーンの実施や季節に応じたプロモーションなどで売上増を見込めます。また、ECサイトやSNSの活用による販売チャネルの拡大やオンライン販売の強化も効果的です。さらに、人気商品や高回転商品の在庫を優先的に確保することで、売上の向上を目指します。
BtoB向けの製造業であれば、新規顧客の開拓に注力するなどの営業戦略を立てることになります。もしくは、既存顧客からの受注増を狙う施策も考えられるでしょう。
期間平均在庫を下げる施策
期間売上を下げるには、在庫金額を減らす必要があります。具体的には以下のような施策があります。
- 過剰在庫や滞留在庫の改善
- 製造リードタイムの短縮
- 不良在庫の処分
- 製品ラインナップの最適化
まず着手すべきは、過剰在庫の削減です。在庫回転率が低い製品を洗い出し、生産ロット数や発注ロット、在庫管理体制を見直し、原因を分析します。
造りすぎによる在庫滞留が起きている場合は、生産ロット数を減らす必要があります。その分、製造コストは上がってしまうため、生産工程の見直しなどでコストを抑える方法を模索します。場合によっては、得意先との交渉も検討することになります。
過剰発注が原因で、材料の在庫過多となるケースも少なくありません。在庫数を正確に把握し、適切な発注ができるように在庫管理体制を見直す必要があります。発注ロット数が多いために過剰発注となっている場合は、仕入先へ小口発注の依頼をします。発注ロットが減れば通常、発注単価は上がるため、ここでも交渉や相見積もりが必要になるでしょう。
製造工程が長い製品を扱う企業の場合、仕掛品が滞留しやすく、在庫金額を圧迫するケースもあるかと思います。この場合は、3M削減などの改善活動で、製造リードタイムを短縮することも効果的です。
不良在庫が多い場合は、値引き販売や廃棄処分による在庫額の低減や、製品ラインナップの見直しにより、在庫全体の効率性を向上させることが可能です。
次に、在庫回転率を分析する場合の注意点についても見ていきましょう。
在庫回転率を分析する際の注意点
在庫回転率は在庫管理の効率化を目指す際に重要な指標ですが、活用する場合には以下のような注意が必要です。
業種や業態の違いを考慮する
在庫回転率の評価は業種や業態によって異なるため、他の業種を参考にする場合は注意が必要です。例えば、食品業界では在庫回転率の高さが重要視される一方、製造業などの工業製品や高額商品を扱う業態では回転率が低くても適正とされる場合があります。
在庫回転率の評価は自社の業種や商品特性に合った基準により行うことが重要です。
売上原価の季節変動に注意する
季節変動が激しい業界や製品は、時期に応じた在庫回転率の分析を行うようにします。特に、繁忙期や閑散期の影響を受けやすい場合、短期間のデータだけで判断すると、実態とは異なった結果となる可能性があります。年間を通じたデータを分析することで、より正確な評価ができます。
データの正確性を確保する
在庫回転率を正しく計算するためには、使用するデータの正確性が重要です。在庫数や売上原価に誤差があると、誤った回転率が算出され、判断を誤る可能性があります。定期的なデータの確認や在庫管理システムの導入により、データの正確性を確保することが重要です。
数値だけに依存しない
在庫回転率は重要な指標ですが、数値だけに依存するのは危険です。例えば、回転率を上げるために在庫を極端に減らすと、欠品や顧客満足度の低下につながる可能性があります。回転率の数値を参考にしながらも、現場の状況や顧客ニーズ、欠品時のリスクなどを総合的に見て判断することが重要です。
在庫回転率の改善に役立つ6つの分析手法
在庫回転率は単純に数値を比較するだけではなく、他のさまざまな分析手法と組み合わせることで検討すべき最適な施策を決定できます。ここでは在庫回転率と組み合わせて使える在庫分析手法をご紹介します。
ABC分析
ABC分析は、在庫品目を重要度や売上への貢献度に基づいて分類する手法です。Aランクは売上の大部分を占める重要な品目、Bランクは中程度の品目、Cランクは重要度が低い品目を指します。ABC分析により、在庫回転率を適正に管理すべき製品の優先順位が明確になります。
デシル分析
デシル分析は、顧客や売上を10段階に分けて分析する方法です。ABC分析より細かく分類するため、さらに詳細な分析やターゲットを絞った対策の検討が可能です。
例えば、売上の上位10%の顧客や製品に集中することで、利益を最大化できます。この手法を活用することで、回転率が低い在庫や非効率な商品を特定し、適切な改善施策を講じることができます。
ピボットテーブル分析
ピボットテーブル分析は、大量のデータを整理・可視化するための手法です。エクセルやスプレッドシートで売上や在庫データをクロス集計し、商品カテゴリや期間別の動向を簡単に分析できます。これにより、在庫の動きや問題点を複数の観点から素早く把握し、適切な改善策を立てることができます。
クリティカルパス分析
クリティカルパス分析は、関連プロセスを分析し、ボトルネックを特定する手法です。プロジェクト管理などに活用されますが、在庫滞留の改善にも役立ちます。
例えば、在庫回転率の低い在庫品の流れ、各工程で掛かっている時間をPERT図に書き出すと、どの部分が在庫回転率を下げている要因なのかを明確にできます。クリティカルパス分析は、特に複雑なサプライチェーンの製品に利用するのが効果的です。
トレンド分析
トレンド分析は、過去のデータをもとに売上や在庫の傾向を把握する手法です。季節変動や需要の増減を予測することで、適切な仕入れや生産計画を立てることができます。トレンドを把握することで、短期的な在庫回転率の変動に惑わされず、長期的な視点で施作を検討できます。
販売予測分析
販売予測分析は、過去の売上データや市場トレンドを活用して、将来の需要を予測する手法です。販売予測分析を行うことで適切な仕入れや生産計画を立て、在庫の過剰や欠品を防ぎます。予測精度を高めることで、在庫回転率の最適化が可能になります。
在庫回転率を上げるための企業の取り組み事例
常に高い在庫回転率を実現している企業の、在庫管理方法の例を紹介します。
需要予測の精度向上に注力
自動車部品メーカーのA社は、AIを活用した需要予測モデルを導入しています。過去の販売実績に加え、自動車メーカーの生産計画なども加味し、精密な予測が可能になりました。これにより、過剰在庫や欠品リスクを最小限に抑えられるようになりました。
短サイクル・小ロット生産を実現
電子機器メーカーのB社は、セル生産方式の導入により、製造リードタイムの短縮に成功しました。また、最小ロットでの生産が可能になり、在庫水準の適正化も図れるようになりました。
在庫管理の徹底とシステム活用
食品メーカーのC社では、製造から販売までの一元的な在庫管理システムを導入しています。全ての拠点の在庫をリアルタイムで把握でき、発注のタイミングを的確に捉えられるようになりました。また、賞味期限の近い製品を優先的に出荷する仕組みも整備し、滞留在庫の削減にも努めています。
在庫回転率の管理には在庫管理システムの導入がおすすめ

在庫回転率を効率的に管理するためには、在庫管理システムの導入がおすすめです。
在庫管理システムを活用すると、リアルタイムで在庫状況を把握できるため、過剰在庫や欠品を防ぎ、適正在庫を維持することが可能になります。また、在庫データを基にした分析も簡単に行えるため、需要予測や発注計画の精度が向上し、過剰発注や在庫滞留を防止できます。
製造業の場合は、在庫管理機能つきの生産管理システムも検討できます。製造業における在庫の正確性は、発注だけでなく、生産計画の精度も左右します。在庫管理機能付きの生産管理システムを活用すれば、生産計画の一元管理も実現し、仕掛品(中間品)の在庫回転率の改善にも役立てられます。
22種類の生産管理システムをランキングで比較
初期費用相場や選び方のポイントをチェック
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