預託在庫(VMI)とは?メリット・デメリットを発注側・仕入側別に解説
公開日:2024年10月03日
最終更新日:2024年10月03日
預託在庫とは、発注側の在庫コスト削減や管理効率化を目的とした新しい在庫管理の手法です。しかし、委託在庫との違いや、サプライヤーにとってのデメリットについてはあまり知られていません。
本記事では、預託在庫の基本概念や委託在庫との違い、さらに発注側とサプライヤーの双方にとってのメリット・デメリットを詳しく解説します。また、実際の使用例とともに、預託在庫管理に役立つシステムについても紹介します。
預託在庫とは何か?
預託在庫とは、サプライヤー(製品を提供する企業)が顧客への納品から使用されるまでの間、その在庫の所有権を保持する形態のことを指します。VMI(Vendor Managed Inventory)とも呼び、サプライヤーが主導で在庫管理を行います。
得意先にある預託在庫は、実際に使用されるまでサプライヤーの資産とされます。顧客は、在庫を使用した分のみ仕入先に支払います。預託在庫は、主に発注側がサプライチェーンの効率化を図るための手段として利用されます。
預託在庫と委託在庫の違い
預託在庫と委託在庫(預け在庫)は、外部に在庫を保管しながら、自社が所有権を持つという点は共通しています。企業によっても認識が異なる場合はありますが、一般的な違いは、どちらが在庫管理を主導で行うかどうかです。
委託在庫は、外部倉庫に在庫管理を委託する際などに活用するケースが多く、卸売業や販売業で多く利用されています。外部倉庫に在庫管理を外注すると、倉庫側で在庫管理まで行う場合が大半です。また、製造業だと、外注品製作を依頼する外注先に部材を預ける場合も、委託在庫と呼ばれます。
預託在庫は、サプライヤーが顧客の代わりに在庫管理を行います。在庫管理を主導するのはあくまで供給側という点が、委託在庫とは異なります。
預託在庫のメリット
預託在庫には、発注側(顧客)とサプライヤー側の双方にとって異なるメリットがあります。発注側とサプライヤー側それぞれの視点から見た、預託在庫の具体的なメリットは以下の通りです。
発注側:在庫コストと管理工数の削減
預託在庫の最大のメリットは、発注側が在庫コストと管理工数を削減できることです。
自社倉庫に保管されている預託在庫は、在庫の所有権がサプライヤーにあるため、棚卸時に自社の資産として計上する必要がありません。よって、過剰在庫や在庫不足などの在庫リスクを抑えやすくなります。
また、在庫管理のための労働力や時間を減らすことができ、生産活動に集中しやすくなる点も、預託在庫の利点です。これにより、運転資金の効率的な活用が実現し、キャッシュフローの改善につながります。
サプライヤー側:自社の在庫保管スペースの削減
サプライヤーにとっての預託在庫のメリットは、自社の在庫保管スペースを削減できることです。
顧客の倉庫に在庫を置くことができるため、自社の倉庫スペースの使用を最小限に抑え、新しい製品の保管や生産に向けたスペースを確保することが可能です。これにより、サプライヤーは柔軟に生産計画を立てることができ、設備投資の削減にもつながります。
預託在庫はサプライヤーにデメリットが多い
預託在庫は発注側にとって多くのメリットがありますが、サプライヤーにとってはデメリットも多く存在します。以下では、サプライヤーが直面する可能性のある主なデメリットについて詳しく解説し、なぜこれが問題になるのかを説明します。
在庫管理の負担増
預託在庫では、サプライヤーは顧客に預けた在庫の管理責任を負うことになります。在庫数量や品質の監視、必要に応じた補充やメンテナンスを行う工数が発生します。棚卸時は、顧客の倉庫へ訪問し、数量確認をしなければなりません。これらの手間で、自社のリソースを圧迫する場合があります。特に、在庫が複数の顧客先に分散している場合、これらの管理業務が大幅に複雑化します。
さらに、顧客側で発生する問題(在庫の破損、盗難、劣化など)についても、サプライヤーが責任を負う場合があります。これにより、管理の手間が増えるだけでなく、予期せぬコストが発生するリスクも高まります。
在庫金額が増えやすい
預託在庫を設定すると、サプライヤーの在庫(=資産)が増加しやすくなります。顧客の倉庫に保管されている在庫であっても、所有権はサプライヤーにあり、在庫が使用されるまで売上を計上できないためです。特に、大口顧客向けに多くの在庫を預託している場合、サプライヤーの在庫資産が増加し、資本効率が低下する原因となります。
また、在庫資産の増加は、資金繰りにも悪影響を及ぼします。このような状況は、特に中小企業にとって深刻な問題となることが多いです。
下請法に抵触するリスクがある
預託在庫は、会計ミスが起きると下請法に抵触するリスクがあり、監査で厳しくチェックされます。特に棚卸時は、預託在庫を棚卸資産から除外する必要があり、カウントミスなどで不正会計が起きる可能性が高くなります。
また、サプライヤーに不利な条件で預託在庫の取引を続け、トラブルに発展するケースもあります。例の一つは、顧客が自由に在庫を返送できる条件で取引する場合です。サプライヤーが返品を受け入れなければならない中、顧客が生産計画の変更などで返品を繰り返すと、サプライヤーが不利益を被る可能性があります。このような取引条件が続くと、法的なトラブルに発展するリスクが高まります。
このようなリスクを回避するためには、事前に明確な契約書を作成し、取引条件を詳細に規定しておくことが重要です。
預託在庫の使用例
預託在庫の仕組みを活用する業界の例は、医薬品・医療機器産業です。医療機関は、重要な医薬品や医療機器のサプライヤーと預託在庫契約を結び、常に一定量の在庫を確保することで、安定した製品供給を維持しています。
医療機器産業では、製品の品質と安全性が最も重視されるため、サプライヤーと緊密な協力体制を築くことが求められます。特に、使用期限がある製品は、サプライヤー側が厳重に管理する必要があります。預託在庫を利用することで、メーカーとサプライヤー間のコミュニケーションを強化し、迅速な対応が可能となるだけでなく、患者に対するリスクを最小限に抑えることができます。
預託在庫の管理には在庫管理システムが役立つ
預託在庫の管理には、在庫管理システムの導入が有効です。在庫管理システムは、リアルタイムで在庫の保管場所、数量、期限やロットを管理できます。自社在庫だけでなく顧客倉庫もロケーション管理することで、在庫の一元管理が可能となります。その結果、棚卸工数が減り、在庫の過剰や不足を未然に防ぐことができます。
また、システムを導入することで、サプライヤーと顧客間での情報共有が円滑になるメリットもあります。システムの導入には初期コストがかかるものの、長期的な視点で見れば大きなメリットを享受できるでしょう。
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