ERP・生産管理システム(MES)、どちらを選ぶべき?併用もアリ?
公開日:2023年10月19日
最終更新日:2025年10月31日
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製造業がDX化を検討し始める際、システム導入として比較されるケースが多いのがERP(Enterprise Resource Planning)と生産管理システムやMESです。これらのITツールは、得意とする情報の管理範囲やメリット・デメリットは異なります。
本記事では、ERPだけで完結できるのかどうか、生産管理システムやMESを併用すべきなのかを判断したい方のために、各システムの違いと選定方法をわかりやすく解説します。また、失敗しにくい
結論:ERPには生産管理機能もある
ERPの中には、生産管理モジュール(生産管理業務ができる機能群)が搭載されているものがあります。つまり、生産管理システムの機能の上位ソフトウェアとして、ERPが位置付けられます。

ERPとは、企業活動に必要な情報や業務を一元的に管理・活用するためのシステムです。代表的なERPとしては、SAPやOracle、OBIC7などが有名です。
ERPの最大のメリットは、会計・販売・購買・在庫など、複数部門の情報を一元管理できることです。生産情報もERPで管理することで、受注→生産→出荷→計上までの数字を、一気通貫で見える化できます。
※ただし、ERPだけで生産管理が完結するとは限らない
ERPの機能について知ると、製造業の基幹システムはERP一本で良さそうに見えるかと思います。しかし実際は、ERPのみで生産管理まで完結できない企業もあります。ERPに搭載されている生産管理モジュールの多くは汎用的に設計されており、細かな運用までカバーできない場合があるからです。
ERPの機能について知ると、製造業の基幹システムはERP一本で良さそうに見えるかと思います。しかし実際は、ERPのみで生産管理まで完結できない企業もあります。ERPに搭載されている生産管理モジュールの多くは汎用的に設計されており、細かな運用までカバーできない場合があるからです。
ERPでの生産管理で機能不足になりやすい業務例
製造業がERPを導入した際、生産管理において機能不十分となりやすい業務は、主に以下5点です。
- 小日程計画:設備や作業者の負荷管理、日々の生産調整
- 工程進捗のリアルタイム把握:ライン別・作業者別・設備別の進み具合や停止理由の即時集計
- 多品種少量生産:頻繁な設計変更、イレギュラー手配への柔軟対応
- プロセス製造管理:配合管理、副産物管理、詳細な品質管理(トレーサビリティ確保など)
- IoTや現場端末との連携:計量器・検査機器・センサー・バーコード/QRコードの自動取り込み
ERPによっては、上記のような細かい生産管理機能がオプションや有償開発になる場合もあります。製造業の導入実績の有無や、自社運用にマッチするかどうかを、あらかじめ確認する必要があります。
ERPと生産管理システムを併用するケースも多い
ERPや基幹システムを利用しながら、リアルタイムな現場管理を行うために生産管理システムを併用する企業もあります。現場改善の相談を日々受ける当社が、よく伺う併用理由は以下3点です。
■ERPと生産管理システムのよくある併用理由
- 自社の業界や生産方式がフィットしないから
- より細かい粒度で生産管理をシステム化したいから
- ERPの画面UIが現場では使いにくいから
生産管理システムは、現場の情報をより精緻に管理する機能が充実しています。リアルタイムでの実績収集やIoT連携など、ERPだと有償になりがちな機能も、標準搭載されているシステムも多くあります。近年は、特定の業界や生産方式に特化した生産管理システムも増えてきました。
また、生産管理システムは現場で使う想定で開発されているため、現場担当者から画面の見やすさ・使いやすさを評価されるケースもあります。ERPは経営層や管理部門、いわば事務系部門が主なユーザーとして作られているため、現場では使いにくいと感じる可能性もあります。
ERPと生産管理システムを併用する「ハイブリッド型」の導入方法であれば、双方の機能不足を補完し合い、製造業の幅広い業務を一元管理できるようになります。APIやCSVを活用すれば、データ連携も自動化でき、シームレスに併用できます。
基幹システムと生産管理システムの併用事例
ERPの不足を補うもう一つの選択肢:MES
製造業の中には、ERPとMES(製造実行システム)を併用するケースもあります。
MESとは、生産計画に従って製造を実行するためのツールです。具体的には、現場のリアルタイムな進捗や品質、設備状態の管理などが可能です。例えば、ERPで生産計画〜生産管理の上流工程まで管理し、製造実行部分をピンポイントでシステム管理したい場合は、ERPとMESの併用が向いています。
ただし、検討しているERPに、自社の現場に合う生産管理機能があるかは要確認です。ERPの生産管理機能が不十分なら、MESではなく生産管理システムと併用する方が安心です。多くの生産管理システムは、多くのMES機能も内包しているため、現場側の管理業務も行えます。
ここまでのまとめ:製造業のERP導入パターン
- ERPのみ
- ERP+生産管理システム
- ERP+MES
ERP・生産管理システム・MES 機能と役割の比較表
自社に合うERPの導入方法を検討するにあたって知っておきたい、ERP・生産管理システム・MESの違いを以下の比較表にまとめました。
| ERP(基幹業務システム) | 生産管理システム | MES(製造実行システム) | |
| 目的 | 全社最適化 原価・在庫・会計の統合管理 | 生産情報の一元管理によるQCD最適化 | 製造現場の効率化 |
| 役割 | 全社の資源(人・モノ・金・情報)を一元管理し、経営判断を支援 | 生産情報全体を一元管理し、経営層(ERP)と現場をつなぐ | 製造実行に関わる作業・品質・設備稼働などをリアルタイム管理 |
| 管理階層 | 経営・管理層 | 管理・現場層(工場長・生産管理部門) | 現場層(作業者・班長・品質担当) |
| 主な利用者 | 経営層、経理、購買、生産計画担当 | 生産管理者、工場長、在庫・発注管理担当、現場作業者 | 現場作業者、ラインリーダー、品質管理者 |
| 情報の粒度 | 大(製品・ロット・部門など) | 中~小(工程・手配単位など) | 小(作業・設備など) |
| データ更新頻度 | 日次・定期更新が多い | 随時更新 or リアルタイム更新 | リアルタイム更新 |
| 得意領域 | 計画立案(大日程)、在庫・原価・会計・購買管理 | 計画立案(中日程・小日程)、在庫・発注・工程進捗・品質・原価実績管理 | 作業指示、進捗記録、品質・稼働・IoTデータのリアルタイム収集 |
| 弱点 | 現場レベルの詳細情報の即時把握 | IoTやセンサーとの直接接続は限定的 | 単独では、経営・原価など上位システムとの連携が不十分 |

システムの導入費用の目安
ERPの導入は、企業の規模、クラウドかオンプレミスか、カスタマイズの量によって異なります。
カスタマイズが少ないクラウド型ERPなら数100万円ほどの初期費用で導入できますが、大規模なオンプレミス型ERPだと数1000万円〜億単位のコストがかかります。
初期費を抑えたい、もしくはなるべく早く導入したい場合は、クラウド型のパッケージ型システムがおすすめです。コストを掛けてでも自社向けカスタマイズをしっかり行いたいならオンプレミス型システムが向いています。

生産管理システムとMESの中には、ERPより安価なシステムもあります。近年はクラウド型システムも増え、初期費用を100万円以下に抑えられるケースも出てきました。
ERPのみで生産管理ができる企業・システム併用すべき企業の違い
ERP単独で十分管理できる現場と、生産管理システムやMESを併用する方がいい現場には、以下の違いがあります。
ERPのみで生産管理が可能な企業の特徴
- 繰返生産や商品種の量産が中心
- 現場管理の粒度が「製品単位」「日単位」で良い
- 仕様変更が少ない
- 工程や生産ラインがシンプル
- リードタイムが安定している
ERPと生産管理システムやMESの併用がおすすめの企業の特徴
ERPのみでの生産管理が向いているのは、製造が比較的シンプルで標準的な企業です。ERPは大日程計画が得意な一方、計画立案後の複雑な生産調整などは難しいケースがあります。なので、計画と実績の差が少なく、安定生産できる量産現場に向いています。
逆に、生産工程が複雑で、リアルタイムに現場最適化が必要な企業は、生産管理システムやMESの併用が向いています。最新の在庫・工程進捗などを把握できるため、頻繁な生産調整にも対応できます。ERPで大日程計画を立案し、生産管理システムやMESで現場管理、生産実績をERPに返す連携をすれば、効率的に管理できます。
自社はどうする?ERP・生産管理システムの選定方法
自社がERPのみ導入するか、生産管理システムやMESのハイブリッド運用を目指すか判断するためには、以下の手順で検討します。
- 現状の業務内容を棚卸し
- ERP標準機能と自社要件の突合
- ERPの標準機能でカバーできない業務の優先順位付け
- 優先順位が高い順に、不足機能の補完方法を決定
- (システム併用の場合)どちらから導入するか判断
1〜2の、自社の要件とパッケージ型システムの機能を突き合わせて分析する方法は、「Fit & Gap分析」と呼ばれます。自社にフィットする機能・理想とギャップがある機能を明確にするために、この分析は不可欠です。
手順1:現状の業務内容を棚卸し
まず、現状の業務フローを洗い出します。以下のように業務を区分けすると、整理しやすくなります。
■自社業務の棚卸し例
| 業務区分 | 主な業務項目 |
| 計画系 | 生産計画、需要予測、資材所要計画(MRP) |
| 調達系 | 発注、納期管理、外注管理 |
| 製造系 | 工程管理、進捗、作業実績、品質、設備稼働 |
| 在庫系 | 入出庫管理、入荷検品、棚卸し、ロット管理 |
| 販売系 | 受注、出荷、売上、請求 |
| 会計系 | 財務会計、管理会計、原価計算 |
| 人事・勤怠系 | 人員計画、勤怠、給与、教育 |
手順2:ERP標準機能と自社要件の突合
次に、導入予定のERPの標準機能を一覧化し、ERP標準機能でカバーできる機能を確認します。
■ERP標準機能と自社業務の突合・整理例
| 業務項目 | ERP標準機能対応 | コメント |
| 生産計画立案 | ◯ | MRP機能で大日程まで対応可能 |
| 工程進捗管理 | × | 現場実績のリアルタイム更新が不可 |
| 品質検査記録 | △ | 検査履歴は登録できるが、トレーサビリティはなし |
| 設備稼働モニタ | × | IoT連携機能なし |
| 原価管理 | ○ | 標準原価・実際原価対応あり |
手順3:ERPの標準機能でカバーできない業務の優先順位付け
ERPの標準機能で対応できない業務を把握したら、どの業務がシステム化の優先順位が高いかを整理します。
以下、3つの軸で判断すると、スムーズに優先順位付けを進めやすくなります。
| 軸 | 高優先になる条件 |
| 業務インパクト | 生産効率・品質・納期に直結する |
| 頻度・ボリューム | 毎日行う業務、もしくは扱うデータ量が多い |
| 投資対効果 | 補完コストに対してリターンが見込める |
手順4:優先順位が高い順に対応方法を決定
優先度が高い順に要件を並べ、ERPの有償カスタマイズをするのか、生産管理システムやMESを併用するのか検討します。
システム化の優先順位が高い業務は、ERPの軽微なカスタマイズで対応できるのであれば、ERPのみの導入で十分カバーできるといえます。逆に、優先順位の高い業務がERPで対応不可、もしくは高額なカスタマイズが必要であれば、生産管理システムやMESの導入を検討します。
「ERPの標準機能に、自社の運用方法を合わせる」という選択肢
ERPの標準機能で対応できない業務の判断として、自社の業務をシステムに合わせるという判断もありえます。自社の運用を変更であれば、カスタマイズ費用なしで業務のシステム化が可能です。
しかし、その判断をする前に必ず現場確認を行い、無理な運用にならないよう注意する必要があります。
手順5:(システム併用の場合)どちらから導入するか判断
もし、ERPと生産管理システムを併用する場合、どちらから導入するかを判断します。
ERPと生産管理システムを同時に導入することも可能ですが、要件定義や複数ベンダーとのやりとりが同時期に集中し、担当者の業務負荷が非常に大きくなります。
その結果、プロジェクトが遅延したり、要件定義が不十分なまま実装して使いにくい運用になったりと、導入失敗に繋がるリスクが高くなります。
併用の場合、生産管理システムからの導入がおすすめ
いずれのシステムも未導入の中小・中堅製造業は、ERPと生産管理システムのどちらから導入するべきか迷うかもしれません。その場合、生産管理システム(またはMES)から導入することをおすすめします。
■生産管理システムからの導入を推奨する理由
- 現場が導入効果を実感しやすく、システムへの抵抗感を少なくできる
- ERPに比べて導入範囲が狭く、導入の負担を抑えられる
- 現場データが整っていない状態でERPを入れても、結果的にERPが機能しないケースがある
システム未導入の中小企業の多くは、「正確な在庫がわからない」「進捗が見えない」など、現場の課題を抱えているかと思います。しかし、システムを導入することで、現在の運用方法が変わることに作業者が抵抗感を感じることも少なくありません。
生産管理システムから導入すれば、現場向けに設計された使いやすい画面から始められます。生産管理システムはERPより業務範囲が狭く、プロジェクト期間も短めになりやすいため、現場でも比較的早く改善効果を実感できます。より広範囲の業務に展開する必要があるERPの導入に際し、システムへの抵抗感を抑えられると、後のERP導入もスムーズに進みやすくなります。
また、ERPは正しいデータがある前提で、それらを統合するために導入するシステムです。先に生産管理システムを導入し、データ整備を完了してからの方が、導入負荷を分散できる点もメリットと言えます。
機能単位でスモールスタートできる生産管理システムSmartF

現場の負荷を抑えて生産管理システムから導入したい中小・中堅企業には、スモールスタートできる生産管理システム「SmartF」がおすすめです。
■SmartFの特徴
- 最小限の機能から導入し、徐々に拡張できる
- ERPを含む他社システムとの連携実績が多数ある
- 導入支援付きトライアルから始められる
SmartFはクラウド型の生産管理システムで、機能単位での導入が可能です。例えば、初めは工程管理などのMES機能から始め、慣れてきたら在庫管理も機能追加をする、といった段階的な拡張もできます。システム導入の小さな成功を積み上げられるため、導入に失敗しにくい点が大きなメリットです。また、主要ERPとの連携実績も多いため、併用するERPの選択肢も広げられます。
さらに、SmartFではトライアル導入で、自社に合うか試してから本格導入が可能です。トライルの時点から導入支援担当がサポートするので、初めて現場向けのシステム導入する中小・中堅製造業も安心です。
SmartFの段階導入の事例:紙・エクセル管理をやめて年間3000時間以上の工数削減!先入先出・期限管理の精緻化で品質管理体制の強化まで実現
ERPと併用できる生産管理システムはこちら
22種類の生産管理システムをランキングで比較
初期費用相場や選び方のポイントをチェック
生産管理システムをそれぞれの特徴や初期費用相場などで比較したい場合は、「生産管理システムランキング」も是非ご覧ください。生産管理システムは、自社の製品・生産方式・企業規模などに適したものを導入しないと、得られるメリットが限定されてしまいます。事前適合性チェックや生産管理システムを選ぶ前に押さえておきたいポイントも解説していますので、製品選びの参考にしてみてください。













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