【イベントレポート】製造業DXカンファレンス2025「大企業の事例は参考にならない」中堅・中小製造業が語る、DXの光と影

2025年12月9日 製造業DXカンファレンス2025

株式会社ネクスタは2025年12月9日、大阪・本町のアーバンネット御堂筋ホールにて「製造業DXカンファレンス2025」を開催しました。現地には35人、オンラインでは155人の、中小製造業におけるDX推進担当者が参加しました。

このイベントのテーマは、「中小企業におけるDXのリアルな事例」です。

世の中にあふれる大企業のDX事例は、投資規模や組織体制が大きく異なるため、多くの中小企業にとっては現実味を持って参考にしづらいのが実情です。

DXの必要性を理解しながらも一歩を踏み出せない中小企業の経営者が本当に知りたいのは、同規模の現場で起きたシステム導入時の失敗談や現場の抵抗、マスタ整備の泥臭い苦労といった「リアル」です。

そうした声に応えるべく、本カンファレンスでは、一筋縄ではいかないDXの「光と影」が当事者たちの言葉で語られました。

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第一部:製造業DXのリアルな事例紹介

第一部では生産管理システムを導入し、DXに成功した3社が登壇し、自社のDXプロジェクトを振り返りました。

1.誠和株式会社:平均年齢49歳の現場で、「一人当たり売上1.4倍」を実現

誠和株式会社  代表取締役・青山和樹氏
誠和株式会社 青山和樹氏

最初に登壇したのは、誠和株式会社  代表取締役・青山和樹氏です。
同社は赤字が続く厳しい経営環境を背景に、生産管理システムの導入に踏み切りましたが、DXプロジェクトは順風満帆とはいきませんでした。

DXプロジェクトで最初にぶつかった壁

最大の課題は、「システムへの心理的な抵抗」でした。
現場の平均年齢は49歳。長年の経験を持つベテラン作業者が多く、「機械は苦手」「システムは難しそうだ」という声が各所から上がりました。

そこで青山氏が取ったアプローチは、トップダウンの号令ではなく、不安をほぐす設計と体制づくりでした。

①メッセージのトーンを変える
「社長が決めたからやる」ではなく、「まずは使ってみてください」と伝え「現場にとって役に立つシステムなんだ」というイメージを落としこむ。

②「頼れる人」を用意する
現場作業者のサポートを最優先ミッションとするシステム専任担当者を置き、「わからなくても、必ず誰かが助けてくれる」という状態をつくる。

これにより、「わからなくてもいつでも聞けるから、とりあえず触ってみよう」という空気を醸成していきました。

DXは一歩ずつ、粘り強く

こうした地ならしの後、少しずつ新システムが定着していきました。

在庫情報がリアルタイムで把握できるようになったことで、棚卸の工数は従来の10分の1程度に。属人化していた進捗管理も見える化され、ムダな待ち時間や手戻りが減り、派遣社員の削減などによる省人化も進みました。結果として、一人当たり売上は約1.4倍まで向上しました。

青山氏は、DXプロジェクトを振り返ってこうまとめました。
「大事なのは、一気に完璧を目指すことではなく、自社の課題を正しく見極め、その課題を一つずつ、粘り強く解決していくことだと思います」

2.宮川化成工業株式会社:ボトムアップ型DXで「月100時間の工数削減」

宮川化成工業株式会社  システム運用責任者の仲本篤徳氏
宮川化成工業株式会社 仲本篤徳氏

続いて登壇したのは、大阪市東淀川区でプラスチックやファインセラミックスの射出成形を行う、宮川化成工業株式会社  システム運用責任者の仲本篤徳氏です。

仲本氏は、現場改善の推進役として、DXプロジェクトで「現場とシステムをつなぐ橋渡し役」を担いました。

DXプロジェクトで浮かび上がった悩み

同社がDXに踏み切ったきっかけは「完全アナログの日報作成」という負担がきっかけでした。

しかしシステム導入プロジェクトが動き出してからは、現場作業者らからはやはり不安の声があがりました。それは「本当にこの新しいやり方で数字は合うのか?」「信じていいかどうか」といった懸念から生まれたものでした。

あえて「二度手間」の期間を設けた

そこで同社が選んだのは、並走運用でした。従来のExcel管理と、新システムでの管理を一定期間並行して実施するというもの。
同じデータを二重に入力し、数値を突き合わせて「ズレない」ことを確認し、現場と一緒に「本当に数字が合う」ことを検証するプロセスを踏んだのです。

短期的には負担が増える「遠回り」にも見えますが、仲本氏は「この期間を一緒に乗り切ることで、現場の不安がほどけていった」と振り返ります。

その先に見えた成果と共通する学び

並走運用が終わるころには、「このシステムなら、いままで手書き・Excelでやっていたことをちゃんと引き継ぐことができる」と現場が確信を持てるようになっていました。

結果として、手書き日報をもとにした集計にかかっていた月100時間の工数が削減。在庫状況のリアルタイムな可視化によって、生産調整の判断もスピーディになり、無駄な手戻りや確認作業も大きく減りました。

DXプロジェクトで大切にしていたポイントとして、仲本氏は次の3つを挙げました。
「まずは現場の課題を起点にすること。次に、一工程ずつ“小さく始める”こと。
そして、小さくてもいいので早く“目に見える効果”を出し、現場のモチベーションを落とさないこと。これはどのような企業にも共通するポイントだと思います」

3.鶴田電機株式会社:システムのリプレイスで在庫適正化

鶴田電機株式会社  技術部部長・小林孝氏
鶴田電機株式会社 小林孝氏

最後に登壇したのは、電力制御機器などの製造を行う鶴田電機株式会社  技術部部長・小林孝氏です。
同社は元々システムで在庫管理を行っていましたが、機能制約により特定担当者しか操作できない状態となり、過剰在庫が経営を圧迫していました。ここから在庫管理システムのリプレイスに踏み出します。

DXプロジェクト中に露呈した本当の課題

プロジェクトが始まると、2つの課題が浮かび上がりました。

  • 新システムへの「登録忘れ」が頻発する
  • 別拠点への展開時、年齢層が高い現場ほど抵抗が強い

ただシステムを入れ替えただけでは「正しい在庫数が入ってこない」という根本問題は解決しない可能性があったのです。

「なぜ入力するのか」を徹底的に共有する

小林氏は、ここで運用ルールを押し付けるのではなく、システム化の意義を丁寧に伝える姿勢をとりました。ポイントは次の2点です。

①登録によって在庫が正しく合うと、現場の探し物ややり直しが減ることを体感してもらう
②些細な成果であっても必ず共有する

「在庫がちゃんと合うようになった」「欠品が減った」「無駄な在庫が減って倉庫に空きができた」といった小さな変化を具体的に共有し続けることで「入力作業がちゃんと結果につながる」という実感を得てもらうようにしました。

DXは「業務と人の変化」を伴う長距離走

こうした取り組みを通じて、現場の協力体制が整い、在庫情報の精度は向上。在庫を常に正しく把握できるようになり、過剰在庫の抑制と在庫の適正化が進みました。
さらに、工程進捗や実績もリアルタイムで把握できるようになり、製造計画の精度向上にもつながっています。

登壇の締めくくりとして、小林氏はDXプロジェクトの本質についてこう語りました。
「DXは目先の効率化だけを目的としたプロジェクトではなく、将来の競争力を高めるための投資だと思っています。そして、何よりもDXは業務と人の変革そのものです。中長期の目線で粘り強く続ける覚悟が重要です」

第2部:会場参加型パネルディスカッション――生の声から見えた「現場の真実」

事例紹介に続く第2部では、来場者およびオンライン視聴者から寄せられた質問に、登壇者がその場で回答するパネルディスカッションが行われました。テーマは、一見きれいな成功ストーリーの裏側にある「現場の本音」です。

まず「現場の反発に対してどのように対応すればよいのか」という質問が上がりました。

青山氏(誠和)は、まずは何よりも現場にメリットを実感してもらうことが大切だと話し、システムの効果を現場が実感した具体的なエピソードを紹介しました。
「あるとき、取引先から『納品数が合わない』とクレームが入りました。従来であれば、弊社に非があるのではと疑われかねない場面です。しかし同社では、生産管理システム上のデータから在庫数と出荷数が正しいことを示すことができました。そして最終的には取引先の倉庫内で商品が紛失していたことが判明しました。データが証拠となって、現場を守り、顧客からの信頼も担保してくれた。非常に印象に残っている出来事です」

また、「新システムと既存フローの並行運用はスムーズにできたのか」という質問に対して小林氏(鶴田電機)は、「各セクションごとに“キーパーソン”となる人の存在が不可欠であり、その人たちをどう巻き込むかが成否を分ける」と指摘。単に手順を共有するだけでなく、「なぜ変えるのか」をキーパーソンと丁寧に共有し、その人たちから現場へと浸透させていくプロセスの重要性を語りました。

このほかにも、システム運用体制の組み方や、マスタ作成をどのような段取りで進めたのかといった、現場実務に踏み込んだ質問が相次ぎました。

第3部:講演「製造業DXに失敗しないポイント」

最後のセッションでは、株式会社ネクスタ代表の永原が登壇し、これまで1,500社以上の製造現場を見てきた経験から、DXを成功させるためのポイントを整理して語りました。

永原は冒頭、「製造現場の課題を突き詰めると、本質は『情報のデータ化』にあります」と切り出します。

手書きの日報をあとからExcelに打ち直すといった二重・三重の入力作業が現場には数多く残っており、「このムダをなくすだけでも、生産性は劇的に変わる」と強調しました。

続いて、DXに失敗しがちな企業の共通点として「最初から全部を完璧にやろうとする」ことを挙げ「鶴田電機様のように『まずは在庫管理から』といった形で、スコープを絞って始めることが重要です」とコメント。小さな範囲から着実に成果を出し、そこから徐々に広げていくアプローチが現実的だと指摘しました。

また、誠和様・宮川化成工業様の事例にも触れながら、「現場に寄り添い続ける担当者をきちんと置くこと」が定着のカギになると説明します。システムと現場の間に立ち、「わからない」「不安だ」といった現場の声を受け止めながら並走する存在の有無で、DXの成否は大きく変わるというメッセージでした。

最後に永原は、「地に足のついた小さな一歩こそが、中堅・中小企業がDXを成功させる唯一の現実的な道筋です」と締めくくり、会場に向けて「完璧さよりも、まず一歩を踏み出すこと」の重要性を訴えました。

交流イベント

講演の後には、会場参加者限定の交流イベントが行われました。
同じく製造DXに取り組む企業同士がグループに分かれ、自社の課題や取り組み状況について意見交換を行いました。

参加者からは、
「実務として製造DXに取り組んでいる企業の方々と直接話せる、貴重な機会だった」
「DX化にあたっての悩みや社内調整の苦労など、生々しい話が聞けてとても参考になった」
といった声が多く寄せられ、「きれいな成功事例」だけではないリアルな情報に触れられる場となりました。

結びに

「大企業の成功事例は、もう参考にならない」。

そんな言葉から始まった本カンファレンスは、中堅・中小製造業が直面する現実と、そのような状況でDX企業の姿を通じて「等身大のDXのあり方」を示して幕を閉じました。

登壇した3社が語ったのは現場の不満や不安に耳を傾け、地道な作業をいとわず、小さな成功体験を積み重ねてきた、歩みの軌跡でした。

株式会社ネクスタは、こうした現場の挑戦に寄り添いながら、これからも製造業の皆さまと共に並走していきます。

今回登壇いただいた企業情報

誠和株式会社
HP http://www.seiwa1967.co.jp/index.html
住所  〒457-0067 愛知県名古屋市南区上浜町171
事業内容 自動車業界向けの工業用スポンジやテープ、プラスチック製品の製造

宮川化成工業株式会社
HP https://www.miyagawa.co.jp/
住所 〒533-0004 大阪市東淀川区小松1丁目16番25号
事業内容 プラスチックやファインセラミックスの射出成形

鶴田電機株式会社
HP https://tsuruta-electric.co.jp/
住所 〒306-0204 茨城県古河市下大野1793-1
事業内容 電源トランスや交流電源「PowerBox」の開発・製造など

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この記事の著者

SmartF

株式会社ネクスタ DXメディア編集部

生産管理システムSmartF(スマートF)の開発と、250以上の現場改善をしてきたノウハウを活かし、製造業DXに関する情報をわかりやすく解説。アナログな現場や生産効率化に悩む、すべての現場へ役立つメディアを運営しています。

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