製造業向け「フォーキャスト」とは?生産管理や発注の精度向上に繋げる方法【事例有】
公開日:2023年09⽉27⽇
最終更新日:2024年09⽉30⽇
フォーキャスト(FCST)とは、売上や需要、目標を予測することを意味します。経営や営業での目標管理などに使われ、製造業においては生産管理や発注業務などで幅広く活用されています。しかし、特に中小・中堅企業では、フォーキャストの精度に課題を抱えるケースが多くあります。
本記事では製造業向けに、フォーキャストの基本からバックキャストとの違い、各業務における管理方法を解説します。少ない手間で正確なフォーキャストを立てる方法も、実際の成功事例をもとにわかりやすく紹介しています。
製造業におけるフォーキャストとは
フォーキャストとは、未来の売上や需要を予測する手法です。過去の営業・売上データや市場動向、季節変動など、多岐にわたる情報を基に予測します。特に製造業では、生産計画や資材調達、在庫管理などにおいて、正確なフォーキャストが求められます。
これらの業務は、製造業において企業の競争力向上に直結する要素です。効果的なフォーキャストにより、市場のニーズを迅速に把握し、ビジネスチャンスを最大限に活かすことができるといえます。
なぜフォーキャスト管理が重要なのか
製造業でフォーキャスト管理が重要な理由は、生産計画や在庫管理など、企業の利益最大化に大きく関わるからです。
フォーキャストに基づき正確な生産計画を立てると、生産量と需要の違いを最小限に抑え、リソースの無駄遣いを防ぐことができます。生産計画の精度が低いと、工程待ちや造りすぎなどのムダが発生し、生産量が足りないと販売機会の損失に繋がります。また、効率的な生産計画は生産リードタイムの短縮にも繋がり、顧客に対する納期短縮も期待できます。
発注業務においても、フォーキャストの重要性は高いといえます。原材料や資材の調達時、将来在庫を予測したうえで発注すると、過剰在庫や欠品のリスクを抑え、在庫コストの削減に繋がります。
このように、適切なフォーキャスト管理を行うと、効率的な生産活動やコスト圧縮により市場競争力を強化できます。
正確なフォーキャストの立て方
精度の高いフォーキャストを立てるためには、正確なデータの収集が不可欠です。製造業の生産管理においては、以下の情報を正しく集計することが重要です。
■生産計画のためのフォーキャストに必要な情報
- 過去の生産実績データ(または営業の販売データなど)
- 過去の作業工数実績データ
- 市場動向データ
■発注計画のためのフォーキャストに必要な情報
- 過去の発注数データ
- 過去の使用量(販売数)データ
- 市場動向データ
フォーキャスト管理においては、これらの情報を分析し、将来の需要を予測します。また、定期的に予測の精度を検証し、必要に応じて予測方法の修正やアップデートを行うことで、より正確なフォーキャストが可能となります。
バックキャストとフォーキャストの違い
フォーキャストに対し、バックキャストという手法もあります。バックキャストは、未来の目標を設定し、そこから逆算して行動計画を探す手法です。フォーキャストが、過去の実績や現在のデータ・トレンドから未来を予測するのに対し、バックキャストは未来の目標を先に決め、そこから逆算して現在すべき行動計画を立てます。
製造業でバックキャストが活用される代表例は、新製品の開発です。新製品の市場投入を目標に、必要な技術開発や生産体制の構築を逆算し、具体的な生産計画を立てることができます。このように、期日が決まっているプロジェクトに対する計画には、バックキャストの活用が効果的です。
バックキャストとフォーキャストを適切に使い分けることで、企業は変化する市場環境に柔軟に対応し、競争力を高めることができます。
内示=フォーキャストと呼ぶ企業もある
製造業では、得意先が仕入先に事前共有する内示(将来の発注予定情報)を、フォーキャストと呼ぶケースも多くあります。例えば、仕入先が「この製品は生産リードタイムが長いので、3ヶ月先までのフォーキャストをください」と相談することがあります。この場合のフォーキャストは、「発注計画」などの意味合いを持ちます。
得意先が内示を事前に示すことで、仕入先は計画的に生産を進められ、納期遅延なく納品しやすくなります。長期的な取引や発注量が多い製品、生産リードタイムが長い製品などにおいて、事前の内示展開は効果的です。
ただし、生産計画を変更した場合、最新の内示情報を再展開する必要があります。内示以上に発注してしまうと、仕入先が至急増産するための負荷が高まります。逆に、内示を下回る発注をすると、仕入先が過剰在庫になってしまいます。仕入先への配慮という観点と、納期通り発注品を受け取るためにも、生産計画変更時のフォーキャスト再共有は重要です。
生産計画におけるフォーキャスト管理
製造業でフォーキャスト管理を活用する代表的な業務が、生産計画です。市場の変動や需要の変化に素早く対応できる、精緻な生産計画を立てることで、企業の競争力向上やリソース最適化が可能になります。
フォーキャスト=将来の受注予測
生産計画におけるフォーキャスト管理は、将来の需要変動による受注数の予測を意味します。季節性や顧客状況による需要変動を予測し、算出した受注見込数をもとに、生産量や生産スケジュールを決めます。正確なフォーキャストに基づく生産計画で、最適な生産スケジュールを作成できると、造りすぎによる在庫過多や工数過剰のムダなどを最小限に抑えられます。
また、正確な生産計画は、発注・購買計画を立てる上でも活用されるため、非常に重要です。
発注・購買におけるフォーキャスト管理
購買部門などでの発注業務においても、フォーキャスト管理は効果的です。特に、発注リードタイムが長い原材料の発注や、生産計画に沿った発注を行う場合は、発注量や発注タイミングを見極めるためにフォーキャストが必須といえます。フォーキャスト管理が不十分だと、過剰在庫によるキャッシュフロー悪化や欠品トラブルが発生しやすくなります。
フォーキャスト=将来在庫の予測
発注・購買業務におけるフォーキャスト管理は、主に将来在庫の予測を指します。現在庫数をもとに、需要予測や生産計画を分析し、適正在庫を保つことができるタイミングで適量の発注を行います。
発注のためのフォーキャスト管理で必要な情報は、主に以下3点です。
- 現在庫数
- 正確な生産計画
- 過去の発注データ
特に、正確な生産計画をもとに発注計画を立てる際は、関連部門との情報共有が必要不可欠です。
発注方式の使い分けでフォーキャスト管理工数を削減
フォーキャストに基づく発注において、発注業務を効率化するためには、発注方式の使い分けがおすすめです。代表的な発注方式は、定量発注方式・定期発注方式です。これにより、重要度の高い品物は時間をかけてフォーキャストを立て、重要度の低い品物は最小限の手間で管理できるようになります。
定量発注方式は、発注点を下回るタイミングに決まった数量で発注するというシンプルな手法です。定期発注方式は、決まったタイミングに発注する手法で、発注数を都度計算します。発注のたびに発注数を計算するので、需要変動に強いメリットがあります。
定量発注方式 | 定期発注方式 | |
発注量 | 一定 | 発注の度に算出 |
発注タイミング | 不定期(発注点を下回ったとき) | 一定 |
メリット | 管理がシンプル、発注工数が少ない | 需要変動に対応できる |
デメリット | 需要変動の対応が難しい | 発注量の計算が毎回必要 |
向いている発注品 | ・需要が安定した品物・単価が低い品物 | ・需要が変動しやすい品物・単価が高い品物 |
定量発注方式を活用する場合は、将来在庫を算出し、発注点を下回るタイミングを把握して発注計画を立てます。システムによる自動発注とも相性が良い発注方式です。
定期発注方式の場合は、定期的にフォーキャスト把握を行い、適正在庫をキープできる発注数を計算して発注します(例:今月は需要が落ちるので100個発注、来月は需要が高まる見込みなので500個発注)。
発注品に応じて適切な発注方式を用いることで、在庫コストの削減や適切な資金流動に繋がります。
営業活動におけるフォーキャスト管理
営業活動における目標・実績管理でも、フォーキャストが活用されます。経営や営業など、ビジネス用語でのフォーキャスト管理は「業績目標管理」と呼ばれます。この場合のフォーキャストとは、目標に対する達成見込みを予測し、そのギャップを埋めるマネジメントを指します。
しかし、製造業の営業においては、生産管理周りのフォーキャストに営業が関わるシーンも度々あります。例えば、生産リードタイムが長い製品を扱う業種においては、営業の受注見込案件も考慮して生産計画を立てる場合があります。営業は、見込み案件の時点から、希望納期や仕様などを正確にすり合わせ、生産管理へ共有する必要があります。
逆に、営業活動において、生産管理のフォーキャスト情報が必要になるシーンもあります。例えば、受注前のお客様に対し、予定納期日を回答しなければならないときです。参考とする生産計画や発注計画などの情報が正確でないと、正確な納期計算が難しくなります。
このように、製造業においては、営業と生産部門の情報連携も非常に重要です。
サプライチェーン管理との連携
製造業におけるサプライチェーン管理とフォーキャストも、密接に関連しています。需要の予測が正確になることで、適切な在庫量を確保し、物流コストの削減が可能になります。これは、製品が顧客に迅速かつ確実に届けられることを意味し、結果として顧客満足度の向上にも寄与します。
フォーキャストが正確であればあるほど、サプライチェーン全体の効率が向上し、物流の改善や円滑な意思決定に繋がります。
フォーキャストの精度を上げる方法
フォーキャストの精度を高めるためには、以下3つの要素が必要です。
- 需要変動の予測
- 実績データ収集
- 定期的なデータの更新と見直し
需要変動を予測・分析するには、市場の動向、過去の販売データ、季節性など、多様な要因を網羅的に把握する必要があります。近年は自動化技術の活用により、データの収集と分析がスムーズになり、より迅速な判断ができるようになりつつあります。
それらの見立て情報と同様に重要なのが、今までの生産や発注の実績データです。生産計画においては生産実績や工数実績、発注計画においては発注実績や実績リードタイムなどのデータを、日頃から収集し、分析できるようにしておく必要があります。
さらに、これらのデータは、定期的な更新と見直しが不可欠です。常に最新の情報に基づいてフォーキャストを立てることで、正確な計画が可能となります。具体的には、予測モデルの見直しや作業工数の見直しなどが必要です。例えば、日々の改善活動で工数が減ってきている生産品目がある場合は、工数を抑えて生産計画を立てられる可能性があります。
中小・中堅規模製造業でよくある課題
中小・中堅規模の製造業企業の多くは、フォーキャスト管理において以下3点の悩みを持つ傾向にあります。
- リソースの少なさ
- 知識不足
- 経験者頼みの管理で属人化
大手企業よりリソースが少ない中小・中堅企業では、人手不足や知識不足で正確なフォーキャスト管理が難しいケースがあります。また、ベテラン管理者が経験則でフォーキャストを立て、その人が退職すると誰も管理できなくなるという企業も少なくありません。
一方で、中小・中堅企業には、柔軟な生産体制があるという強みがあります。この大手企業にはない強みを活かすことで、変化する市場ニーズに迅速に対応し、競争力を高められます。この強みを活かす方法の一つは、生産管理システムの活用です。
生産管理システムによるフォーキャスト効率化の方法【事例あり】
製造業にて生産管理システムを導入すると、各データ収集を自動化し、少ないリソースでフォーキャストを立てられるようになります。さらに、システム導入でアナログな作業を減らすことで、ヒューマンエラー削減も期待できます。
フォーキャストにおいて、特に手間が多くかかるのは、実績データの収集です。紙の管理表やエクセルでの集計を行うと、工数が膨らむだけでなく、ヒューマンエラーが発生する可能性も高くなります。ここをシステム化することで、中小・中堅企業の課題であるリソース不足を解消できます。
特に工数削減効果が大きいのは、以下3点です。
- 工数集計の自動化
- 在庫データのリアルタイム更新
- 将来在庫の自動計算
工数集計の自動化
中小・中堅企業には、紙の作業日報をエクセルに集計することで工数把握をしている企業が多くあります。生産管理システムで作業日報をデジタル化すると、工数集計を自動化することができます。その結果、フォーキャスト用に実績データを集計する手間を最小限に抑えられます。
例えば、作業開始・終了の登録をシステム上で行うことで、作業時間を自動集計できるようになります。どの製品を作るために、どの設備で、誰が作業したか、良品数・不良数なども登録・蓄積できるようになります。フォーキャストを立てる際は、分析に必要なデータを検索し、いつでも取り出せるようになります。
実際の事例:手書き&エクセル入力がゼロに。1人の省人効果+迅速な生産調整で生産性向上
在庫データのリアルタイム更新
生産管理システムでは、在庫数や発注データをリアルタイムに更新できます。これにより、発注・購買のフォーキャストのためだけに、最新の情報に更新する手間をなくせます。
おすすめの方法は、システムと連動するハンディ端末の活用です。現場で入出庫するたびにハンディ端末から在庫更新がしやすくなるので、リアルタイムかつ正確な情報更新が可能となります。
実際の事例:在庫管理のシステム化に成功!リアルタイムな在庫管理で年間100万円の在庫削減
将来在庫の自動計算
さらに、生産計画や発注データを生産管理システムで一元管理することで、将来在庫の計算も自動化できます。具体的には、生産計画と発注データをシステム上で連携させると、現在庫数をもとに、数ヶ月先の生産予定数や部材使用予定数を自動計算できます。この一元管理によって、リードタイムが長い部材の発注時などに、フォーキャストを立てる手間を自動化できます。
実際の事例:将来在庫の自動計算で発注の負担・工数を削減!生産計画と在庫を紐づける管理を実現
これらの課題と強みを踏まえ、効果的なフォーキャストを構築することで、中小・中堅規模企業も市場での競争力を向上させることができます。
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