ISO22000とは何か、HACCPとの関係性や認証取得までの流れを解説
公開日:2025年01月22日
最終更新日:2025年01月23日

食品の安全は、消費者の信頼を守るだけでなく、企業の競争力を高めるためにも不可欠な要素です。本記事では、ISO22000の基本概要から、その認証取得の流れ、HACCPや他規格との違い、具体的な運用例までを詳しく解説します。
ISO22000の導入により、食品安全マネジメントシステムを構築し、国際的な信頼性を確立する方法を学べます。また、認証取得のメリットやデメリットについても解説します。
ISO22000とは

ISO22000は、食品安全マネジメントシステム(FSMS)に関する国際規格で、食品安全に関するマネジメントシステムを体系化したものです。主に、食品の生産から消費者への供給までのすべての段階で発生する食品安全リスクを管理し、消費者の健康を守ることを目的としています。食品製造業者だけでなく、農業、輸送、包装、卸売、小売、外食産業など、食品チェーンに関わるすべての企業が対象です。
ISO22000とHACCPとの関係性
ISO22000はHACCPの内容を組み込んだ規格になっており、それぞれの違いをまとめると次のようになります。
項目 | ISO22000 | HACCP |
対象 | 組織全体の食品安全管理システム | 食品の危害管理(特に製造・流通段階) |
適用範囲 | 組織のマネジメント全体、国際規格 | 単独の手法、工程レベル |
義務性 | 任意で導入(信頼性向上を目的とする場合) | 多くの国で法規制に基づき導入が必須 |
内容 | HACCPを含む総合的なマネジメントシステム | 7つの原則に基づいた危害管理手法 |
管理対象 | 食品安全の全プロセス(調達から出荷まで) | 危害の特定と管理に特化 |
HACCPが食品安全リスクの管理に特化しているのに対し、ISO22000は企業全体の食品安全管理プロセスを体系化するものだといえます。
→ HACCPとは何か 原則や手順、資格、運用の課題と解決策について解説
ISO22000の対象業種
ISO22000は、食品に関わるあらゆる業種が対象になります。具体例をあげると次のようになります。
業種 | 具体例 |
食品製造業 | 飲料、加工食品、冷凍食品、乳製品、調味料、菓子類など |
食品の包装材製造業 | 食品用のプラスチック包装材、缶詰、紙パッケージ、ガラス容器など |
農業・畜産業 | 農作物の生産、畜産業、水産業など |
食品の輸送・物流業 | 冷蔵輸送、冷凍チェーン、倉庫業、物流センターなど |
飲食業 | レストラン、ケータリングサービス、ホテル業界の食品提供部門など |
食品卸売・小売業 | スーパーマーケット、食品専門店、オンライン食品販売など |
飼料製造業 | 動物飼料の製造・販売など |
清掃・衛生関連業 | 食品工場や倉庫の清掃業者、害虫駆除業者など |
農業・畜産業などの食品の生産を行う一次産業や、包装材などのサプライヤーにも適用されていることが分かります。具体的に認証を取得している企業については日本適合性認定協会の公式サイトで検索できます。自社が認証されているかどうか不明な場合は、一度調べてみても良いかもしれません。
ISO22000の構成と要求事項
ISO22000の構成は他のISO規格と同様に10章で構成され、PDCAサイクルに基づいています。主な要求事項は以下の通りです。
項目 | 説明 |
1. 適用範囲 | 規格の目的と適用範囲を定義。食品安全に関するマネジメントシステムの要件を規定 |
2. 引用規格 | 他の関連規格への参照を記載 |
3. 用語と定義 | 規格で使用される専門用語を明確化 |
4. 組織の状況 | 内外の課題や利害関係者を特定し、食品安全マネジメントシステムの範囲を決定 |
5. リーダーシップ | ・トップマネジメントが食品安全への責任を明確化し、食品安全方針を策定 ・役割と責任を割り当てる |
6. 計画 | ・食品安全リスクと機会を特定し、目標や対応計画を設定 ・変更管理を含むリスクベースのアプローチを採用 |
7. 支援 | ・必要なリソース(人員、設備)を確保 ・教育訓練を通じて従業員の能力を向上 ・文書化情報の作成と管理 |
8. 運用 | ・前提条件プログラム(PRP)の実施 ・HACCP計画を策定・運用し、食品安全リスクを管理 |
9. パフォーマンス評価 | ・システムの有効性を確認するため、監視・測定・内部監査を実施 ・管理レビューで改善点を特定 |
10. 改善 | ・不適合が発生した場合の是正措置を実施 ・システム全体の継続的な改善を図る |
食品安全方針の策定やトップマネジメントのリーダーシップ、リスク評価に基づくHACCP計画とPRP(前提条件プログラム)の実施などが記載されています。また、食品安全に関わる文書や記録の適切な管理、内部監査や管理レビューによるシステムの有効性確認、不適合への是正措置と継続的な改善が項目としてあげられています。
ISO22000の認証取得の流れ

ISO22000認証取得は、大きく分けて「システムの構築」「システムの運用」「審査・認証の取得」という3つの段階を経て行われます。それぞれの段階で必要なプロセスと注意点について詳しく見ていきましょう。
システムの構築
ISO22000認証の第一段階は、食品安全マネジメントシステムを適切に構築することです。ここでは、食品安全方針の設定や従業員教育を通じて組織全体の基盤を固めます。
食品安全方針と目標の設定
まず、食品安全方針と目標の設定を行います。
食品安全方針は、組織が食品安全にどのように取り組むかを示す基本的な声明で、トップマネジメントが責任を持って策定し、組織全体で共有します。
次に、方針をさらに具体化した食品安全目標の設定を行います。目標は実行可能かつ測定可能な形で設定する必要があり、「SMART原則」の考え方を用いるのが効果的です。
- Specific(具体的):達成すべき目標が明確であること
- Measurable(測定可能):進捗や結果が数値で評価できること
- Achievable(達成可能):現実的に達成可能であること
- Relevant(関連性がある):食品安全方針と直結していること
- Time-bound(期限がある):達成期限が設定されていること
具体例としては以下のようなものがあります。
- 製造ラインでの異物混入リスクを年内に10%削減
- 従業員の食品安全教育参加率を95%以上に引き上げる
- 温度管理のモニタリング記録を100%達成
手順書、マニュアル、記録フォーマットなどの作成
ISO22000認証を取得するためには、食品安全マネジメントシステム(FSMS)を適切に運用するための文書化が不可欠です。手順書やマニュアル、記録フォーマットなどを作成することで、システムの有効性を確保し、審査などにおいても証拠として提示することができます。
手順書 | ・各業務プロセスを具体的に説明し、従業員が迷うことなく作業を行えるようにする文書 ・例:異物混入防止手順書、温度管理手順書、製品トレーサビリティ手順書 |
マニュアル | ・組織全体の食品安全マネジメントシステムを包括的に説明する文書方針、目標、責任分担、プロセスの概要、HACCP計画との連携などを含む・例:食品安全マニュアル |
記録フォーマット | ・運用時の実績を記録するためのテンプレート・例:温度モニタリング記録、清掃記録、従業員教育記録 |
従業員への教育
ISO22000の認証取得において、従業員への教育も重要です。従業員が食品安全に関する知識を十分に理解し、規定された手順を適切に実施できるようになることで、システム全体の信頼性が向上します。
教育内容としては、食品安全方針やHACCPの原則、前提条件プログラム(PRP)の実施方法などの基本的な知識から、職務に応じた実務的な手順まで幅広く含まれます。また、教育の実施内容や参加状況は記録し、審査時の証拠資料として残しておくことが重要です。
システムの運用
システム構築が完了したら、実際に運用を開始します。この段階では、PRP(前提条件プログラム)やHACCP計画の実施が中心となります。
前提条件プログラム(PRP)の実施
PRPは、食品安全システムの土台を支える基盤プログラムです。具体的には、清掃・衛生管理、原材料の保管方法、製造設備の管理などが含まれます。
PRPの適切な実施は、HACCPを効果的に機能させるための前提条件です。そのため、事前にPRPのチェックリストを作成し、定期的な見直しと改善を行う必要があります。
危害分析とHACCP計画の作成
危害分析では、食品の製造・流通プロセス全体を対象に、潜在的な危害を洗い出します。その後、HACCP計画を作成し、リスクを最小限に抑えるための具体的な管理方法を設計します。
HACCP計画の策定には、リスクの優先順位付け、CCP(重要管理点)の特定、監視手順の設定が含まれます。また、計画は業界の最新情報や規制に基づいて定期的に更新する必要があります。
システムの運用
PRPとHACCP計画が整ったら、それに基づいて実際の業務を運用します。システム運用の初期段階では、計画に沿って記録を取り、モニタリングを実施することが重要です。
また、運用中に発生した問題や改善点を記録し、次の段階で活用できるようにします。この運用記録は、後の審査でも重要な資料となります。
審査・認証の取得
システムを一定期間運用した後、ISO22000の認証取得に向けて、審査プロセスに進みます。
認証機関の選定と契約
まず、ISO22000の認証を実施する認証機関を選定し、契約を結びます。認証機関の選定にあたっては、費用、審査の実績、業界特化の知識などを考慮します。
信頼性の高い認証機関を選ぶことで、審査プロセスがスムーズに進むだけでなく、認証取得後のブランド価値向上にも影響します。具体的な認証機関の例としていくつかご紹介します。
- 日本品質保証機構(JQA)
- 日本能率協会審査登録センター(JMAQA)
- エイエスアール株式会社(ASR)
- ジーサーティジャパン(G-CERTI)
- 日本環境認証機構(JACO)
- BSIグループジャパン
- 日本規格協会(JSA)
- 日本検査キューエイ株式会社(JICQA)
現地審査
現地審査では、認証機関の審査員が企業を訪問し、構築したシステムがISO22000の要件を満たしているかを確認します。この審査は、主に書類審査と現場確認の2段階で行われます。
まず書類審査では、ISO22000の要求事項に基づいたシステム文書が適切に整備されているかを確認します。具体的には、食品安全方針や目標、HACCP計画、前提条件プログラム(PRP)の内容、手順書や記録フォーマットが審査対象となります。
次に現場確認では、書類で定められた手順が実際に現場で運用され、システムが有効に機能しているかを審査します。HACCP計画の実施状況、清掃記録や温度管理記録などの文書管理、設備や施設の衛生状況、従業員の食品安全に対する理解度などが確認対象です。
これらの審査を通じて、ISO22000の基準を満たしていることが証明されると認証が発行されます。
不適合の是正
審査中に不適合が指摘された場合、是正措置を講じる必要があります。この段階では、不適合の原因を分析し、改善策を講じることでシステムの信頼性をさらに高めます。
是正措置が完了したら、再度審査員に確認を依頼し、是正内容が受け入れられれば次のステップに進むことができます。
認証取得
最終的に、審査をすべてクリアすればISO22000の認証が発行されます。認証取得後も、システムの適切な運用を維持するために定期的な内部監査や外部審査が必要です。認証取得はゴールではなく、食品安全の取り組みを継続的に改善していくための新たなスタートと捉えることが重要です。
ISO22000認証取得のメリット

ISO22000認証を取得することで、食品安全管理の信頼性が向上し、企業としての競争力が高まります。具体的には次のようなメリットがあります。
食品安全性の担保
食品の生産から流通に至るまでの各段階で発生し得る危害を予防・管理することで、食品の安全性を担保できます。食品安全のリスクを最小限に抑えることで、消費者に対して安全で安心な食品を提供できるだけでなく、食品事故の発生を防ぎ、企業の社会的責任を果たせます。
取引先の信頼性向上
ISO22000認証を取得することで、取引先に対して食品安全に関する取り組みの高さを示すことができます。ISO22000は、国際的に認められた規格であるため、国内外の企業との取引がスムーズになり、ビジネスチャンスの拡大にもつながります。
また、認証取得は食品安全管理に関する透明性を向上させるため、取引先との信頼関係をより強固にすることが可能です。
従業員の意識向上
ISO22000の導入により、従業員が食品安全の重要性を理解し、日常業務において高い意識を持って取り組むようになります。特に、教育やトレーニングを通じて食品安全の知識やスキルが向上するため、作業の質が改善し、現場全体のモラル向上にもつながります。
ISO22000認証取得のデメリット
ISO22000認証の取得には多くのメリットがある一方で、導入や運用に伴うデメリットも考慮する必要があります。特に、コストや工数の面で負担が生じるため、事前の計画とリソースの確保が重要です。
コストがかかる
ISO22000認証を取得するためには、初期導入費用や審査料、さらに運用を維持するための継続的な費用が必要です。具体的には、食品安全マネジメントシステムを構築するための設備投資や従業員のトレーニング費用、外部審査のための費用が挙げられます。
これらの費用は、特に中小企業にとって大きな負担となる場合があります。そのため、コスト対効果を慎重に検討することが重要です。
工数がかかる
ISO22000認証取得には、システムの構築や文書の整備、従業員への教育など、多くの工数が必要です。また、認証取得後も定期的な内部監査や外部審査への対応が求められるため、日常業務の中で食品安全管理に多くの時間を割かなければなりません。
特に初期段階では業務負担が増加する可能性があるため、効率的なスケジュールと役割分担を計画することが重要です。
ISO22000と他規格との比較
ISO22000は食品安全マネジメントシステムに特化した国際規格であり、他の規格と比較して幅広い特徴を持っています。それぞれの規格の違いを理解することで、企業にとって最適な導入方法を検討する助けになります。
FSSC22000との違い
FSSC22000は、ISO22000を基盤とした食品安全認証スキームです。ISO22000と比較し、追加の技術的仕様や詳細な要件が含まれています。
例えば、FSSC22000はISO22000の要件に加えて、特定の食品製造業向けに設計された前提条件プログラム(PRP)や、さらなる認証スキーム要件が組み込まれています。そのため、FSSC22000はより厳格で詳細な管理が必要となりますが、ISO22000よりもグローバル市場での認知度が高い点が特徴です。
→ 食品安全規格「FSSC22000」とは ISO22000との違いや認証取得のメリットを解説
ISO9001との違い
ISO9001は品質マネジメントシステムに関する国際規格であり、食品安全に特化したISO22000とは目的が異なります。ISO9001は顧客満足を目的とした品質管理を中心としており、製品の安全性や危害管理についての具体的な要件は含まれていません。
一方、ISO22000は食品安全に焦点を当てており、危害の特定や管理を重要視します。ただし、両者ともにPDCAサイクルを採用しており、相互補完的に活用することで、品質と安全性の両立が可能です。
→ ISO9001はもう必要ない?知っておくべき基本と導入すべき理由
ISO22000を効果的に運用するためには生産管理システムの導入がおすすめ

ISO22000を効果的に導入し、運用するためには、生産管理システムの導入を併せて検討することをおすすめします。生産管理システムは、食品安全に関連する業務の効率化と精度向上により、ISO22000の運用を強力にサポートします。
例えば、原材料の入荷から製造、出荷までのトレーサビリティの一元管理や、HACCP計画やPRP(前提条件プログラム)の実施などを記録し、手作業によるミスや記録漏れを防止します。また、温度管理や検査記録などの重要な情報をリアルタイムで記録し、いつでも確認・分析できるため、不適合が発生した際の迅速な対応が可能になります。
また、内部監査や外部審査時に必要なデータを即座に提供できるといったメリットもあります。企業全体の生産体制を強化するために、ぜひ導入を検討してみてください。
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