HACCPのハザードとは何か?製造現場でのリスク評価と安全管理の基本ガイド
公開日:2024年08⽉25⽇
最終更新日:2024年09⽉06⽇
ハザードとは、危険性や有害性などを及ぼす要因を意味する言葉です。食品製造業界においては、食品安全管理のための衛生管理手法「HACCP」における重要な考え方の一つです。本記事では、HACCPにおけるハザードとは何か、その要因や対策、分析方法について解説します。
HACCPにおけるハザードとは
HACCPにおけるハザードとは、食品の安全性に影響を及ぼす可能性のある要因を指します。これには、病原菌やウイルスなどの生物的要因、農薬や食品添加物などの化学的要因、金属片やガラス片などの物理的要因が含まれます。HACCPの目的は、これらのハザードを特定し、適切に管理することで消費者へのリスクを最小限に抑えることです。
ハザードとリスクの違い
「ハザード」と「リスク」はしばしば混同されがちですが、HACCPにおいては明確に区別されます。ハザードとは、食品安全に潜在的な影響を与える要因そのものであり、リスクとはそのハザードが実際に問題を引き起こす可能性を指します。
例えば、特定の病原菌が存在することはハザードですが、その菌が特定の条件下で増殖し、消費者に危害を及ぼす確率がリスクです。
HACCPシステムでは、このリスクを低減するために、まずハザードを特定し、そのリスクを評価することで、最も効果的な管理策を決定します。
危害要因分析(ハザードアナリシス)の手順
危害要因分析は、食品の製造過程において潜在的なハザード(危害)を特定し、それらが消費者に与えるリスクを評価し、必要な管理策を策定することです。これにより、食品の安全性を確保し、消費者の健康を守ることが可能となります。
潜在的な危害の特定
潜在的なハザード(危害)の特定(HA)は、HACCPの初期段階で行われる重要なステップです。
これには、原材料、製造プロセス、流通過程、さらには消費者の手に渡るまでの全過程における潜在的な危害が含まれます。
この段階では、どのような微生物が食品に影響を与えるか、どのような化学物質が混入する可能性があるか、異物の混入がどのように起こり得るかなどを詳細に分析します。
危害のリスク評価
特定されたハザードに対して、そのリスクを評価することが次のステップです。
リスク評価では、ハザードが実際に発生する可能性と、その発生が健康に与える影響の大きさを評価します。これにより、どのハザードが最も重要であるかを判断し、どの段階でコントロールが必要かを決定します。
リスク評価の結果に基づいて、重要管理点(CCP)が設定され、優先的に管理されるべきリスクが明確化されます。
重要管理点の決定
重要管理点(CCP)は、特定のハザードを管理するための重要なステージです。
ここでは、特定のプロセスや手順が、リスクを管理する上で重要であると見なされます。
例えば、加熱工程が食中毒の原因となる微生物を殺菌するために重要な管理点となることが多いです。重要管理点の決定は、食品の安全性を維持するために不可欠であり、その後の対策や監視手順がこれに基づいて設定されます。
予防対策の策定
重要管理点が決定された後、それに基づいて予防対策が策定されます。
この段階では、特定のハザードが発生するリスクを最小限に抑えるための具体的な手順や管理方法が設定されます。
例えば、一定の温度での調理、特定の洗浄・消毒手順、異物検知システムの導入などが含まれます。予防対策は、事前にリスクを回避するための措置であり、HACCPの成功には不可欠な要素です。
継続的な監視
HACCPでは、策定された予防対策が適切に実施されているかを確認するために、継続的な監視が行われます。
これには、温度の記録、定期的な微生物検査、異物検出システムの稼働確認などが含まれます。継続的な監視により、ハザードが発生する前に問題を発見し、対策を講じることが可能となります。
さらに、監視の結果は記録され、将来のリスク評価やシステムの改善に利用されます。
ハザードの要因
HACCPにおけるハザードは、一般的に生物的要因、化学的要因、物理的要因に分類されます。それぞれの要因は、異なる対策と分析手法を必要とします。
生物的要因
生物的要因とは、食品に含まれる微生物や寄生虫など、健康に悪影響を与える可能性のある生物的存在を指します。これには、細菌、ウイルス、カビ、寄生虫などが含まれます。
これらの生物的要因は、食品の製造過程での温度管理の不備、衛生状態の不良などが原因で増殖し、食品の安全性を脅かすことがあります。生物的要因の管理には、適切な温度管理、衛生的な取り扱い、定期的な微生物検査などが重要です。
化学的要因
化学的要因には、食品に意図せずに混入する可能性のある有害な化学物質が含まれます。これには、農薬の残留、工業化学物質の汚染、アレルゲンの混入などが考えられます。
これらの化学的ハザードは、食品の原材料や製造過程で発生することが多く、特定の管理方法を必要とします。化学的要因に対する対策には、原材料の受け入れ時の検査、製造過程での混入防止策、アレルゲンの管理などが含まれます。
物理的要因
物理的要因は、異物の混入によるハザードを指します。これは、ガラス片、金属片、プラスチック片など、食品に意図せずに混入する異物が原因となるものです。
物理的ハザードは、製造設備の不具合や不適切な取り扱いにより発生することが多いです。このようなハザードに対する対策には、製造ラインでの異物検知システムの導入、定期的な機器点検、従業員の教育などが含まれます。
ハザードの対策
HACCPシステムでは、ハザードの要因ごとに適切な対策を講じることが求められます。それぞれの要因に応じた対策を適切に実施することで、食品の安全性を確保することができます。
生物的要因の対策
生物的要因に対する対策では、特に温度管理と衛生管理が重要です。
これには、冷凍や冷蔵による微生物の増殖抑制、加熱による殺菌、従業員の手洗いや器具の消毒などが含まれます。また、製造施設の清掃や消毒、原材料の受け入れ時の品質チェックも欠かせません。
これらの対策は、HACCPプランの中で具体的に規定され、実施されます。
化学的要因の対策
化学的要因に対する対策は、食品に使用される化学物質の管理と、アレルゲンの管理が中心となります。
農薬や添加物の残留基準を守るための原材料の選定、製造ラインの清掃や切り替え時のアレルゲン混入防止策などが具体的な対策です。また、作業員への教育やトレーニングを通じて、意図しない化学物質の混入を防ぐことも重要です。
物理的要因の対策
物理的要因に対する対策には、製造設備の定期点検とメンテナンス、異物検知装置の導入や、従業員の作業時に異物混入を防ぐためのルール設定が重要です。
また、製造過程で使用する資材の管理や、完成品の検査を通じて、異物が混入していないことを確認することも必要です。
ハザードの分析手法
それぞれのハザードに対して次のような分析手法を適用して、安全性を確認します。
生物的要因の分析手法
生物的要因の分析手法としては、主に微生物検査が用いられます。
これは、食品中に存在する細菌やカビの種類と数を確認するための検査で、培養法、PCR法、迅速検査法などがあります。また、定期的な衛生チェックや環境モニタリングも生物的ハザードの分析手法として重要です。また、リスクの評価には、温度管理や衛生管理の状態も考慮され、これに基づいて具体的な管理対策が策定されます。
化学的要因の分析手法
化学的要因の分析手法には、残留農薬や添加物の分析が含まれます。
ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーなどの高度な分析機器を使用して、食品中の化学物質の濃度を測定します。また、アレルゲン検査も重要で、特定のタンパク質を検出するELISA法などが一般的です。これにより、化学的ハザードが人体に与える影響を評価し、許容範囲を超える場合には、適切な対応策を講じる必要があります。
物理的要因の分析手法
物理的要因の分析手法としては、異物検知装置の使用が一般的です。
金属探知機やX線検査装置などを利用して、食品中に混入した異物を検出します。また、目視検査やサンプル検査も行われ、異物混入がないかを確認します。分析結果に基づき、製造過程や包装過程での異物混入を防止するための対策を導入し、製品の安全性を確保します。
まとめ
HACCPシステムにおいて、ハザードの特定と管理は食品の安全性を確保するための基本的なステップです。生物的、化学的、物理的要因に対する適切な対策と継続的な監視を通じて、食品の安全を維持することが可能になります。
HACCPとは何かについては以下の記事で詳しく解説しているので、HACCPの概要が知りたいという方はそちらを参照ください。
→ HACCPとは何か 原則や手順、資格、運用の課題と解決策について解説
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