QMS(品質マネジメントシステム)を徹底解説:QMS構築の基本と具体的な運用方法
公開日:2024年08⽉25⽇
最終更新日:2024年09⽉09⽇
品質マネジメントシステム(QMS)は、製品やサービスの品質を維持・向上させるために不可欠な枠組みです。この記事では、QMSの概要から導入のメリット、そして具体的な国際規格や構築のポイントまでを詳しく解説します。
QMSを導入することで、業務プロセスの効率化や法的リスクの軽減が期待でき、顧客満足度の向上にも繋がります。企業が競争力を維持し、持続的に成長するための基盤として、QMSの役割を理解し、効果的に活用する具体的な取り組みを確認しましょう。
QMSの概要
QMS(品質マネジメントシステム)は、組織が製品やサービスの品質を継続して維持・向上させるための枠組みです。QMSは、組織内の業務プロセスを体系的に管理することで、品質に関する顧客満足度の向上、法令順守、リスク管理の取り組みを加速します。
マネジメントシステムとは
マネジメントシステムとは、組織が目標を達成するために、方針、プロセス、手順、リソースを統合的に管理する枠組みです。このシステムは、品質管理、環境影響管理、安全管理など、さまざまな分野で組織のパフォーマンス向上に寄与します。
マネジメントシステムを導入することで、組織は目標を着実に達成し、顧客満足度を向上させるとともに、リスクを最小限に抑えることができます。
代表的なマネジメントシステム:QMS・EMS・SQF
マネジメントシステムの代表例として、次の3つが挙げられます。
- QMS(品質マネジメントシステム):製品やサービスの品質管理に関する枠組み
- EMS(環境マネジメントシステム):環境への影響を管理・改善するための枠組み
- SQF(食品安全マネジメントシステム):食品安全と品質管理に関する枠組み
これらのシステムはそれぞれ異なる分野に焦点を当てていますが、共通して顧客満足度、リスク管理、持続可能な組織運営に不可欠な枠組みです。
QMSの目的
QMSの主な目的は、組織構造と業務プロセスを透明化することによって、顧客要求事項や法的規制を満たし、製品やサービスの品質を向上させることにあります。その結果、顧客満足度が向上し、製品・サービスの信頼性が高まります。
また、QMSは内部の業務プロセスを効率化し、コスト削減やリソース最適化を促進する役割も果たします。さらに、QMSの推進により、リスク管理が強化され、法的トラブルを未然に防ぐこともできます。
QMSに関する国際規格
品質管理の基準として、以下のような国際規格が存在します。
ISO9001:あらゆる業界で適用される品質全般規格
ISO9001は、ISO 9000シリーズとしても知られる国際的な品質管理規格で、組織全体の品質管理体制を体系化・改善するための枠組みです。グローバルに広く採用されている規格で、製造業を中心に多くの企業が導入しています。顧客満足度の向上、プロセスの標準化、リスク管理の強化を目的としています。
IATF16949:自動車産業に関する品質規格
IATF 16949は、ISO 9001をベースに自動車業界特有の要求事項を追加したものです。IATF(International Automotive Task Force)によって策定され、製品そのものの安全性、不具合の予防、サプライチェーン全体における継続的改善、リスクベースの考え方などが含まれる、より厳格な枠組みです。部品メーカーから自動車メーカーまで、業界全体にわたり統一された品質基準を提供し、業界標準として広く採用されています。
ISO9100:航空宇宙に関する品質規格
ISO9100は、ISO9001をベースに航空宇宙産業特有の要求事項を追加したもので、正式にはAS/EN 9100として知られています。日本ではJIS Q 9100が採用されています。
この規格は、航空機、宇宙機器、国防製品などの設計、開発、製造、保守において高い品質と安全性を確保するために制定されました。リスク管理やサプライチェーンの厳密な管理が求められます。
ISO13485:医療機器に関する品質規格
ISO13485は、医療機器の設計、開発、製造、販売に関する品質管理の規格です。この規格は、医療機器の安全性と有効性を確保するために特化しており、法規制を遵守するための厳格なルールを定めています。
ISO22000:食品安全に関する規格
ISO22000は、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格であり、食品業界全体にわたる安全管理の枠組みを提供します。この規格は、HACCP(危害要因分析と重要管理点)原則を基にしており、食品製造プロセスにおけるリスクを特定し、予防的に管理するための手順を定めています。
QMSを推進するメリット
QMSを導入・推進することで、以下のようなメリットが得られます。
製品品質の信頼性が向上する
QMSを推進することで、製品やサービスの品質改善が加速され、顧客満足度向上に繋がります。品質管理・業務プロセスが標準化されるため、品質ばらつきや不良品発生が減少します。
また、品質に関する記録データを継続的に収集・分析することで、問題の早期発見と迅速な対応が可能となります。その結果、顧客満足度向上だけでなく、自社のコスト削減にも繋がります。
オペレーションが効率的になる
QMSの導入により、組織全体で業務プロセスが見える化・標準化されることで、全員が同じ基準に従って業務を遂行することが可能になります。明確な手順やプロセスにより、作業の無駄を減らし、効率的に業務を推進することができます。
法的リスクを排除できる
QMSを適切に運用することで、関連する法規制を確実に遵守することができます。これにより、品質に関する法的トラブルを未然に防ぎ、顧客や取引先からの信用失墜を防ぐことができます。
QMS構築のポイント
QMSを効果的に構築するためには、組織全体で品質管理に関する意識を共有することが重要です。具体的には次の5つのポイントです。
経営層による品質方針・品質目標の明文化
QMSの推進には、経営層や組織責任者の関与が不可欠です。経営層・組織責任者が品質方針や目標を明確に定め、各部門・プロセスを含む組織全体に共有します。これにより、関係者が同じ方向を向いて業務に取り組むことができ、持続的な品質改善が実現します。
経営層が強い意志を持ち、その実行に責任を持つ姿勢は、組織全体の意識と行動を導く原動力となります。
必要な物的資源の特定
業務遂行に必要な物的資源(設備、材料、技術、システムなど)を特定し、適切に管理することが重要です。物的資源を見える化することで過不足が明らかになり、適切な物的資源確保による業務プロセスの標準化・効率化が可能となります。
必要な力量の特定
QMSを効果的に運用するためには、適切なスキルと知識を持つ人材が不可欠です。まず、組織内で必要とされる力量を特定し、それに基づいて従業員の教育・訓練を計画・実施することが求められます。
力量を明確にすることで、品質管理に対する全員の意識が高まり、品質向上への取り組みがより効果的になります。さらに、従業員のスキルアップは、組織全体の能力を底上げし、品質問題の未然防止や対応力の強化にもつながります。
業務プロセスの文書化
QMSの構築において、業務プロセスを明確化し、文書化することは不可欠です。これにより、各プロセスの責任者や関係者が自身の役割を正確に理解し、適切に業務を遂行することができます。
また、業務プロセスの透明性が向上することで、問題発生時の原因究明や改善活動がスムーズに行われるようになります。業務プロセスを文書化することは、効率的な業務推進と品質管理体制を保証する基盤構築に繋がります。
目標達成基準の明確化
目標達成基準の明確化は、品質目標を達成するために不可欠です。具体的なKPI(重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)を設定することで、進捗状況を適切に評価したり、課題抽出が可能となり、必要に応じて改善策を講じることができます。これにより、組織全体が共有する目標に向けて一丸となって取り組み、継続的な改善を促進することができます。
QMSの推進に必要なこと
QMSを効果的に推進するためには、組織全体が一貫したアプローチを取り、一過性のアクションに留まらないように継続的な改善を促進することが重要です。
目標を進捗管理する
組織の品質目標を達成するためには、目標達成基準に基づいて定期的に進捗管理することが不可欠です。各部門やプロセス単位で定期的に進捗を確認し、その達成状況を評価します。これにより、組織は早期に品質に関する課題を把握し、適切な対策を迅速に講じることができます。
さらに、進捗管理を通じて、組織全体が一丸となって目標に向けて取り組む文化が醸成され、品質向上が促進されます。このように、目標の進捗管理は、QMSの継続的な改善と組織の成長を支える重要な取り組みです。
文書に基づく記録を行う
QMSの効果的な運用には、品質文書に基づいて継続的に記録することも必要です。これにより、業務プロセスや品質管理活動の透明性が確保され、トレーサビリティが向上します。
また文書に基づく記録は、内部監査や外部審査の際にも重要なエビデンスとなり、組織の品質管理体制が適切に機能していることを証明するために必要です。また、過去の記録を分析することで、継続的な改善に向けた新たな気づきを得ることができます。
内部監査で自組織の改善点を見つける
内部監査は、QMSが計画通りに運用されているかを確認し、改善点を発見するための重要な手段です。定期的に実施することで、プロセスの不備や改善の余地を早期に見つけ、迅速に対応することができます。
内部監査の目的は、単に規則の遵守を確認するだけではありません。組織全体の品質向上を目指し、外部の視点から具体的な改善点を特定し、継続的な改善活動を支援する役割を果たします。
QMS導入においてよくある課題と改善方法
QMSの導入と運用には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。QMSの導入が組織全体で効果的に機能し、長期的な品質向上が実現されます。
QMS導入にあたり障壁となるもの
QMS導入に向けた主な課題として、従業員の抵抗、導入コスト、既存のプロセスとの統合の難しさなどが挙げられます。これらの障壁を克服するためには、経営層の強力な推進体制、明確なコミュニケーションが不可欠です。
また従業員に対する教育・訓練を充実させることも重要です。QMSの価値と導入メリットについて理解を深めることで、抵抗感を減らし、円滑に進めることが可能になります。
継続的なPDCAサイクルを回す仕組み
QMSの運用において、継続的な改善を実現するためには、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回すことが重要です。PDCAサイクルを繰り返すことで、品質管理のプロセスを絶えず見直し、改善することができます。
業務プロセスについて、品質方針に基づき、PDCAサイクルの各段階を明確にし、実行可能なアクションプランに落とし込みます。これにより、組織全体が持続的に進化し、競争力を維持することが可能となります。
品質管理ツールの活用
品質管理システムや各種ツールを活用することで、QMSの運用効率を大幅に向上させることができます。データの収集・分析、プロセスの可視化、記録の管理など、多くの機能を提供し、品質管理業務を支援します。
例えば、管理図を含むQC7つの道具でのデータ分析、そこからさらに踏み込んだSPC(統計的工程管理)は、品質管理の取り組みに大きく役立ちます。特に、デジタル化されたツールを導入することで、記録データを自動収集し、リアルタイムでのデータ共有や分析を可能にします。
製造現場におけるQMS管理の基本は、電子データで生産実績を見える化することです。品質管理強化だけでなく、実績確認の工数削減にも繋がります。
具体的な事例はこちら:【工程管理システム】ハンディ端末を用いた作業記録でエクセル管理の工数削減を実現
このように品質管理ツールを効果的に活用することで、組織のQMSに関する取り組みを加速することができます。
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