製造業における5S活動とは?生産性と企業価値を高める活動を解説
公開日:2023年03⽉18⽇
最終更新日:2024年10⽉30⽇
多くの製造業では、5Sという言葉がルールの1つとして掲げられています。製造業にとっては常識ともいえる5Sですが、徹底できている企業は意外に少ないものです。
5Sはただ現場をきれいに保つだけの活動ではありません。5Sを徹底すれば、生産性や企業価値を大きく高めることもできます。今回の工場改善コラムでは、5Sの概要やメリット、具体的な活動事例などを解説いたします。
5S活動の概要
「5S」はSから始まる5つの活動を指す言葉です。製造業だけでなく、あらゆる業界で職場環境を改善するための活動として掲げられています。
- 整理(Seiri・せいり)
- 整頓(Seiton・せいとん)
- 清掃(Seisou・せいそう)
- 清潔(Seiketsu・せいけつ)
- 躾(Shitsuke・しつけ)
5Sはどれか1つだけ取り組めばいいのではなく、5つの活動に対して段階的に取り組んでいく必要があります。それぞれの活動の内容を解説いたします。
整理(Seiri・せいり)
「整理」は、必要なものと不要なものを区別することを指します。
製造業では大量のものを扱いますが、不要なものを整理して処分していかなければ、ものが溢れてしまって必要なものを探す手間が発生します。また、十分なスペースが確保できないため、狭い場所で非効率な作業をせざるを得なくなります。しかし、不要なものを区別して捨てていけば、常に必要なものだけが存在し作業をしやすい環境を維持できるでしょう。
また、整理は形のあるものだけが対象ではありません。業務や作業、情報なども整理の対象になります。たとえば、ムダな作業をなくす、自社の強みでない仕事は外注する、活用されていない古い帳票を捨てる、といったことも整理の一部です。
製造業で行われている整理の例をまとめてご紹介します。
- 不要だと思うものに赤札をつけ、一定期間経っても動きがなければ処分する
- 何に使うものなのか、用途を表示する
- 工具や資材を共用化して、ものの数を減らす
- 図面や伝票などの古い情報は、最新のものだけを手元に残す
- 発注担当者を決めて、誰でも勝手にものを購入できないようにする
整頓(Seiton・せいとん)
「整頓」は、必要なものの位置を決めて、使いやすく並べておくことを指します。
業務で必要なものの定位置が決まっており、すぐに取り出せるように並んでいれば、どこにあるのかと探すムダな時間がなくなり、すぐに業務を開始できます。業務の流れや使用頻度に応じた適切な場所にものを置き、どこに・なにがあるのかを分かりやすく表示しておくことが重要です。
製造業で行われている整頓の例をまとめてご紹介します。
- 置き場所を定める(=定位)
- その場所に置くものを定める(=定品)
- 置く量を定める(=定量)
- 置き場所が決まっていないもののために、仮置き場を設ける
- 枠取りをして、決まったものしか置けないようにする
清掃(Seisou・せいそう)
「清掃」は、掃除をしてきれいな環境を保つことを指します。
業務の開始前や終了後に掃除をし、ゴミや汚れをなくすことで、製造現場や事務所をきれいにします。また、生産設備や治工具の清掃・点検を行うことで、いつでも安心して使える状態を維持します。
製造業で行われている清掃の例をまとめてご紹介します。
- 企業全体での清掃時間を設ける
- 場所ごとに清掃担当を決めたり、ローテーションしたりする
- 使用前に生産設備や治工具のメンテナンスを行う
清潔(Seiketsu・せいけつ)
「清潔」は、整理・整頓・清掃を意識して清潔な状態を保つことを指します。
具体的には、製造現場が整理・整頓されているか見回りをする、掃除やメンテナンスをルーティンワーク化する、といった活動を行います。汚れがなく常にきれいな環境は、従業員の満足度を高めるだけでなく、顧客や取引先にも良い印象を与えます。
躾(Shitsuke・しつけ)
「躾」は、従業員が整理・整頓・清掃・清潔の4Sを正しく守って確実に実行できるように習慣付けることを指します。
社員研修や日常的なコミュニケーション、部下への指導をする中でルールを伝え、正しく理解して実行できるようにしていきます。
また、躾には挨拶や報連相といった4S以外の基本的なルールを守ることも含まれています。5Sを徹底している会社は、挨拶が明るく交わされており、コミュニケーションが活性化して企業全体の雰囲気も良くなる傾向にあります。
5S活動の目的とメリット
5Sの内容についてはご理解いただけたと思います。では、なぜ5Sが製造業にとって重要で、多くの企業が取り組んでいるのでしょうか。その理由は、5Sが単に職場環境をきれいにするだけの活動ではなく、さまざまなメリットをもたらすからです。
ここでは、5S活動の主なメリットについて解説いたします。
業務の効率化
整理・整頓ができていない製造現場では、必要なものを探す手間が発生しがちです。そういったムダな時間の積み重ねが、製造業にとって重要な生産性を落とす要因となっています。
しかし、5S活動に取り組んで常に整理・整頓された製造現場になれば、必要なものをすぐに取り出してスムーズに作業が開始できます。また、業務フローやマニュアルが整備されており、誰でも同じように作業ができる環境を構築できれば、製造現場全体の業務効率が飛躍的に向上するでしょう。
安全性の向上
ゴミや汚れ、不要なものが多い製造現場では、事故のリスクが高まります。
- 重量物の運搬中にものにぶつかって落としてしまう
- 生産設備の周辺にあったものによって火災が起こる
- 劣化した生産設備によって事故が起こる
このように危険な製造現場では、従業員が安心して働くことができません。そうならないためにも、5S活動に取り組んで事故のリスクを極力なくしていき、安心して作業に集中できる環境を整えることが重要です。
品質の向上
ゴミや汚れ、不要なものが多い製造現場では、異物混入をはじめとする不具合が発生しやすくなります。特に、精密機器メーカーや食品・医薬品などのメーカーでは、厳しい品質管理が求められるため、異物混入はあってはならないことです。
不具合が発生すると、作り直しや再検査を行う必要があり、ムダな工数とコストがかかります。不具合が発生しにくいきれいな現場を維持することで、企業の品質レベルは向上していくでしょう。
従業員の満足度向上
汚くて、事故が発生しやすい職場で働きたいという人は少ないはずです。「キツイ・汚い・危険」な職場を「3K」と呼ぶこともありますが、そういった職場は従業員がなかなか定着せず、人手不足に陥る傾向にあります。
5S活動に取り組み、きれいな職場環境を維持することで、従業員の満足度が向上するとともに、新たに人を採用するときにも好印象を与えられます。
企業価値にもなり得る
顧客が自社に来社した時に、ものが散乱した汚い現場を見て良い印象を持つでしょうか?最悪の場合は、企業としての管理レベルや不具合の発生リスクを懸念してしまい、取引を継続できなくなるかもしれません。
一方で、5Sが徹底された現場は来社した人に好印象を与えます。基本的なことが徹底できている企業は信頼されやすいものです。また、5S活動を通じて常に現場の改善に取り組むことで自律的に行動する人材が育っていき、企業の成長に欠かせない組織力を強化できます。
このように、5Sはただ職場をきれいに保つだけの活動ではなく、企業価値にもなり得るということを覚えておきましょう。
製造業での5S活動の事例
ここでは、5Sに取り組むことで企業価値の向上につながった事例を紹介します。
トヨタ自動車株式会社
日本の製造業の代表ともいえるトヨタ自動車。トヨタ自動車は徹底した5Sで有名な企業です。
トヨタ自動車では、5Sを単なる掃除や片付けではなく、仕事そのものと捉えて取り組んでいます。5Sへの徹底した取り組みが製造現場のムダ・ムリ・ムラを見つけ出す目を養っており、「カイゼン」を世界に誇る言葉として定着させたといえるでしょう。
トヨタ自動車では、一部の工場で工場見学やリモート見学を受け付けています。トヨタの5S活動やトヨタ生産方式を実際に見てみたい方は、申し込んでみてはいかがでしょうか。
(参照元:トヨタ自動車株式会社ホームページ)
オグラ金属株式会社
オグラ金属株式会社は、自動車、アミューズ部品、環境商品部品、鉄道車両部品などを製造する金属加工の企業です。5Sを楽しみながら実践する風土をつくり、社員全員で働きやすい職場作りに取り組んでおられます。
5Sが徹底しているのはもちろん、感謝の気持ちを伝えるための「ありがとうカード」を導入するなど、従業員同士のコミュニケーションを活性化させるための取り組みも行っています。
(参照元:オグラ金属株式会社ホームページ)
5S活動がうまくいかない場合の原因と対策
5S活動に取り組んでみたけれど、なかなか定着せずに中途半端なまま終わってしまったという企業は多いものです。ここでは、5S活動がうまくいかない場合の主な原因と対策をご紹介します。
5S活動の目的が定まっていない
5S活動の目的やメリットを従業員が理解しないまま取り組んでいると、指示されたことをこなすだけの活動になりがちです。5S活動を始める際には、部署やグループ単位で集まってミーティングを行い、5S活動の目的やメリットを共有しましょう。
また、「やらされている」感覚を軽減するためにも、従業員同士が意見を出し合って目標を設定することが重要です。目標を達成できた場合はきちんと評価したり、企業内で表彰したりするなどして、従業員が主体的に取り組んでくれる仕組みを作っていきましょう。
順番を無視して取り組んでいる
5Sは整理・整頓・清掃・清潔・躾の5つの活動を指しますが、この順番には意味があります。この順番通りに取り組むことで、スムーズに進められるようになっているのです。
たとえば、整理ができておらず、不要なものが散乱した状態で整頓に取り組んでも、適切にものを配置することはできません。そもそも使わないものの定位置を決めても意味はありませんし、現場のスペースがいくらあっても足りなくなります。また、ものが散乱した状態で清掃をしても、掃除できるスペースが限られるのできれいになった実感が湧かないでしょう。
整理は現場にあるものの要・不要を一つ一つ判断しなければならないので、大変な手間がかかります。一気にまとめて整理する、毎週一区画ずつ整理するなど、自社にとってやりやすい方法でよいので、まずは整理から取り組んでみてください。
5S活動の対象が限られている
5S活動では「もの」に焦点が当たりやすく、製造現場が中心の活動と誤解されがちです。しかし、「もの」だけを意識して5Sに取り組んでいても、大幅な改善は難しいかもしれません。一部の企業では、5S活動の対象を「4M+1I」に拡大して取り組んでおり、大きな成果を上げています。
- 人(Man)
- もの(Material)
- 設備(Machine)
- 作業方法(Method)
- 情報(Information)
「4M+1I」の視点を持ち、人材育成や設備の最適化、作業方法の標準化などに取り組むことで、企業全体の生産性は大きく向上していくでしょう。
また、これからの製造業では、情報の視点も極めて重要と考えられます。顧客情報・技術情報・生産状況などのデータを適切に管理するのはもちろん、各種システムやIoT・AIなどを積極的に活用して業務の効率化に取り組んでいきましょう。
ネクスタでお手伝いできること
今回は、5S活動の概要やメリット、うまくいかない場合の原因と対策などをご紹介しました。整理・整頓・清掃・清潔・躾の5つの活動は製造業にとって基本的な内容ではありますが、これらを徹底できている企業は大きく成長しているものです。
5S活動に取り組むことに損はありません。今まで以上に生産性や企業価値を高めていけるように、自社の5S活動を改めて見直してみてください。
当社ネクスタでは、生産管理システムの「SmatF」を開発・提供しており、製造現場に散乱しがちな情報を一元管理するためのサポートを行っています。紙やエクセルで管理している情報を生産管理システムに集約すれば、現場のあらゆる状況が「見える化」され、生産性向上や業務効率化に役立てることが可能です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されている今後の製造業において、情報の価値はますます高まっていくと考えられます。5S活動の一環として、生産管理システムの導入も検討してみてはいかがでしょうか。
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