SOP（標準作業手順書）とは　作成目的やGMPとの関係性を詳しく解説します

公開日：2024年10⽉08⽇

最終更新日：2024年10⽉08⽇

製造業で品質管理を向上させる一つの手段として、SOP（Standard Operating Procedure）があります。SOPは製造業や医療業界をはじめ、さまざまな業界で重要な役割を果たしています。

本記事ではSOPの概要や作成する目的、GMPとの関係性について詳しく解説します。SOPの正しい運用が、作業の一貫性を保ち、業務の効率化や安全性の向上、法令遵守を確保するためにどう役立つのかを理解し、導入のメリットを最大限に引き出しましょう。

SOP（作業標準手順書）とは

SOP（Standard Operating Procedures、作業標準手順書）とは、業務や作業を標準化し、一定の品質や安全性を確保するために作成される手順書のことです。SOPは、作業を行う際に従うべき具体的な手順を詳しく記載しており、誰が作業を行っても同じ結果が得られるようにすることを目的としています。

これにより、作業ミスの発生を防ぎ、効率的な作業を実現することができます。製造業や医療、サービス業など、さまざまな業種で使用されており、特に品質管理や安全管理が重要な場面で重視されます。

SOPの内容には、作業の目的、必要な資材や機器、作業手順の各ステップ、注意事項、そして確認方法などが含まれます。これにより、作業者が迷わずに作業を進めることができ、教育の効率化もできます。また、SOPは定期的に見直し、最新の情報や技術に合わせて更新することが重要です。

SOPの目的

SOPの主な目的は、業務や作業を標準化すること、それを文書化することで、一定の品質と安全性を維持し、組織全体での作業の一貫性を確保することです。SOPの目的をまとめると以下のようになります。

作業の一貫性確保

SOPは、作業の一貫性を確保するために不可欠なツールです。標準化された手順を全ての作業者が遵守することで、誰が作業を行っても同じ結果を得ることができます。これにより、作業のばらつきを減らし、品質の均一化が可能になります。特に製造業や医療現場では、SOPによって作業ミスを防ぎ、製品やサービスの信頼性を高めることが求められます。

業務効率の向上

SOPは、業務の効率化にも大きく貢献します。標準化された手順に従うことで、作業者は迷わずにスムーズに作業を進めることができます。また、重複作業や無駄を減らし、作業時間の短縮にも繋がります。結果として、業務全体の効率が向上し、組織の生産性を高められます。特に、複雑な作業や多数のステップを含む業務では、SOPがその効率化をサポートします。

コンプライアンスの遵守

SOPは、法規制や業界標準に基づいて作成されるため、コンプライアンスの遵守を容易にします。特に、製薬業界など厳しい規制が求められる業界では、SOPを導入することで法的リスクを減らし、組織が規制を満たしていることを証明できます。これにより、監査や調査の際に迅速かつ確実な対応が可能になります。

教育・訓練の基盤

SOPは、新しい従業員や未経験者への教育・訓練の基本となるものです。標準化された作業手順書があれば、作業の重要なポイントや注意事項を明確に伝えることができ、スムーズなトレーニングが可能です。これにより、経験の浅いスタッフは作業の習得が早まり、組織全体のスキル向上に寄与します。また、SOPは、知識の一貫性を保ちつつ、世代を超えてノウハウを引き継ぐためのツールとしても役立ちます。

事故やトラブルの防止

SOPの導入は、事故やトラブルの防止にも効果的です。手順書に従うことで、作業中におけるリスクを事前に把握し、適切な対応を行うことが可能になります。また、過去のトラブルや失敗を踏まえて手順書を更新することで、同じ作業ミスの再発を防ぐことができます。これにより、作業環境の安全性が高まり、従業員の安心感も高まります。

SOPとマニュアルの違い

SOPとマニュアルは、どちらも業務や作業の手順を記載した文書ですが、その目的や内容には違いがあります。

SOPは、特定の業務・作業を一貫して実施するための標準的な手順を詳しく記載したものです。具体的には、作業の目的、使用する資材や機器、作業手順の各ステップ、注意事項、確認方法などが含まれます。また、SOPは、特に品質管理や安全管理が重要な場面で使用され、業務プロセスの標準化と品質の一貫性を確保することが目的です。

一方、マニュアルは、SOPよりも広範な範囲をカバーする文書で、業務全体やシステムの操作方法、製品の使用方法など、さまざまな情報を提供します。マニュアルは、初心者から経験者まで幅広い利用者を対象とし、手順だけでなく背景知識や理論、トラブルシューティングの方法なども含まれることが多いです。マニュアルは総合的な「ガイドブック」であり、業務やシステム全体を理解するために役立ちます。

GMPとSOPの関係性

GMP（Good Manufacturing Practice）とSOPは、製造業や医薬品業界において密接に関連している概念です。GMPは、医薬品などにおける製品の品質を確保し、安全性を保証するための一連の基準や規制を指します。そしてSOPは、GMPの要件を具体的に実行するための手順書です。

GMPは医薬品などの製造工程全体にわたる広範な規制であり、一貫した製造品質を保証することを目的としています。この規制には、次のような分野が含まれます。

施設の設計
設備の管理
製造プロセス
品質管理
従業員の教育訓練

GMPの要件を遵守するためには、具体的な作業手順を明確にし、標準化する必要があります。そこで登場するのがSOPです。

SOPは、GMPの規定を実際の作業レベルで実行するため、具体的な手順を詳しく記載した文書です。例えば、製造プロセスにおける各ステップ、機器の操作方法、衛生管理の手順、品質検査の方法など、GMPで求められる品質管理を実現するための指針がSOPにまとめられます。これにより、作業者はGMPの基準を正確に理解し、確実に実施することができ、結果として製品の品質と安全性が保証されます。

GMPについての詳しい解説は、以下の記事を参照してください。

→ GMPとは　運用の流れや認証プロセス、導入メリットをわかりやすく解説

SOPのデメリット

SOPは、業務の標準化と一貫性を確保するために非常に有効なツールですが、いくつかのデメリットも存在します。これらのデメリットを理解することで、SOPを導入する際の注意点や改善策を考えることができます。

柔軟性の欠如

SOPは、作業手順を標準化するために詳細に作成されており、状況に応じた柔軟な対応が難しくなることがあります。特に、予期しないトラブルや不測の事態が発生した場合、SOPに記載されていない対応が求められることがあります。

しかし、SOPの手順に厳密に従うことで、迅速かつ適切な対応ができず、かえって業務の効率や効果が低下する可能性もあります。

SOPが業務効率を下げてしまう状況を防ぐには、定期的にレビューとフィードバックを行うことが重要です（詳しくは後述）。

手順に固執しすぎるリスク

SOPにて手順の標準化が過度に強調されると、作業者は定められた手順に固執しすぎてしまうリスクがあります。手順に従うこと自体が目的化してしまい、状況に応じた判断や柔軟な対応ができなくなることがあります。これにより、作業者が改善の機会を見逃すだけでなく、非効率な作業を続けてしまう可能性も出てきます。

SOPが業務改善を妨げないようにするには、SOPで行う作業の目的を明確にし、周知する必要があります。作業目的を明らかにすることで、現在のSOPが最適かどうか判断しやすくなります。

更新や維持に手間がかかる

SOPは、業務の標準化と一貫性を確保するために重要な文書ですが、常に最新の情報や技術に合わせて更新する必要があります。特に、業務内容や法規制が変わった場合には、SOPを適宜見直し、修正する必要があります。

しかし、SOPの更新作業や維持には時間と労力がかかり、組織全体の限られたリソースを圧迫することになります。また、頻繁な更新が求められる場合、作業者にとって混乱を招く可能性もあります。

SOP運用の手間を減らすには、手順書やマニュアルの作成ツールを使用する方法もあります。自社に合うツールを選定できれば、管理工数の削減が見込めます。

SOPの作成手順

SOPの作成は、業務の標準化と一貫性を確保するために重要なプロセスです。以下では、SOPを効果的に作成するための具体的な手順について解説します。

目的と範囲の明確化

まず、SOPを作成する際には、目的と範囲を明確にすることが重要です。目的を明確にすると、SOPが何を達成するために作られるのかを全員が理解しやすくなります。

また、範囲を定めることで、どの業務や作業に適用されるのかを特定し、必要な情報を過不足なく盛り込むことができます。このステップは、SOPの作成全体の方向性を決定するための基礎となります。

対象作業の分析

次に、SOPに記載する対象作業の詳細な分析を行います。ここでは、作業の各ステップを分解し、必要な資材や機器、関係者などを特定します。一つひとつの作業の目的や背景、リスク要因も含めて分析することで、手順を漏れなく正確に記載できるようになります。この分析は、SOPの完成度に大きく影響するため、十分な時間をかけて行うことが重要です。

手順の作成

対象作業の分析が完了したら、具体的な手順の作成に進みます。ここでは、作業を順序立てて分かりやすく記載し、誰が読んでも理解できるようにすることが重要です。

各ステップは詳細に説明し、必要な注意点や確認事項も明記します。また、図やフローチャートを活用して視覚的にわかりやすくすることも効果的です。手順の作成は、SOPの中核となる部分です。

責任者の明確化

SOPでは、各手順や作業における責任者を明確にする必要があります。責任者を明示することで、作業の実行や確認が誰の責任で行われるのかが明確になります。これにより、作業中の混乱を防ぎ、問題が発生した際の迅速な対応が可能になります。また、責任の所在が明確であることで、全体の業務が円滑に進むようになります。

リスク管理と安全対策

手順作成時には、リスク管理と安全対策を十分に考慮することが不可欠です。作業中に発生し得るリスクを予測し、それに対する具体的な対策をSOPに組み込むことで、安全性を確保します。

また、緊急時の対応手順や、安全装置の使用方法なども記載します。リスク管理を徹底することで、事故やトラブルの発生を未然に防ぐことができます。

レビューとフィードバック

作成したSOPは、関係者によるレビューとフィードバックを受けることが重要です。実際に作業を行う担当者や、上位管理者からの意見を取り入れることで、SOPの内容をより実践的で有効性の高いものに仕上げることができます。また、レビュー過程で見つかった改善点や曖昧な部分は修正し、全体の完成度を高めます。

承認と発行

レビューを経て修正が完了したSOPは、最終的に上位管理者による承認を得る必要があります。承認を受けた後、正式に発行され、現場での運用が開始されます。

この段階で、SOPの管理者や配布先、発行日なども記録し、必要な関係者に適切に配布されるようにします。

教育とトレーニング

SOPの発行後は、作業者に対して適切な教育とトレーニングを行います。具体的には、作業者がSOPの内容を正確に理解し、実践できるようにするため、講習会や実地訓練を実施します。

これにより、全員がSOPに従った一貫した作業を行えるようになり、作業ミスやトラブルの防止にも繋がります。教育とトレーニングは、SOPの効果を最大限に引き出すために重要です。

定期的な見直しと更新

最後に、SOPは定期的に見直しと更新を行うことが求められます。業務内容の変化や新しい技術の導入、法規制の改訂に対応するため、定期的なレビューを行い、必要に応じて修正を加えます。

このプロセスにより、SOPが常に最新の情報に基づいて運用されることが保証され、長期的に品質や安全性が維持されます。定期的な見直しと更新は、SOPの継続的な改善に不可欠です。

SOPを作成するときの注意点

SOPを作成する際には、いくつかの重要な注意点を守ることで、実用性が高く、理解しやすい文書を作成することができます。以下では、SOP作成時に特に注意すべきポイントについて解説します。

シンプルで明確な表現を使用する

SOPを作成する際には、シンプルで明確な表現を使用することが非常に重要です。複雑な言葉や専門用語を避け、誰が読んでも簡単に理解できるようにすることで、SOPの実効性が高まります。

また、短い文や箇条書きを使って要点を簡潔に伝えることで、読者が必要な情報を迅速に把握できるようにします。シンプルな表現は、作業者の理解を助け、手順に従う際のミスを減らす効果があります。

作業手順を順序立てて書く

SOPに記載する作業手順は、必ず順序立てて書くことが求められます。手順が前後してしまうと、作業者が混乱し、ミスを誘発する可能性があります。そのため、作業の流れを十分に理解し、論理的な順序で手順を記載することが重要です。

また、手順間の関連性や、次のステップに進むための条件を明確にすることで、作業の一貫性と効率が確保されます。

必要な詳細情報を記載する

SOPには、必要な詳細情報を漏れなく記載することが重要です。これには、使用する機器や材料、作業環境、注意事項などが含まれます。詳しい情報が記載されていないと、作業者が誤った判断をする可能性があり、結果として作業の失敗やトラブルが発生するリスクが高まります。

必要な詳細情報を正確に記載することで、作業者が安心して手順を実行できる環境を整えることができます。

関係者の意見を反映する

SOPを作成する際には、関係者の意見を積極的に反映することが重要です。リリース前にレビューを行い、実際に作業を行う担当者や、管理者からのフィードバックを抽出します。これを取り入れることで、現実的で実用的な手順書を作成することができます。

関係者の意見を反映することで、SOPが実際の業務に即した内容となり、作業者の理解と実行が容易になります。また、関係者の意見を尊重することで、SOPへの信頼性も高まります。

コンプライアンスを考慮する

SOPを作成する際には、必ずコンプライアンス（法令遵守）を考慮する必要があります。業界の規制や法的要求を遵守した内容を記載することで、組織が法律や規制に従った適切な手順を実施していることを証明できます。

コンプライアンスを無視したSOPは、法的リスクを招くだけでなく、製品やサービスの信頼性を損なう可能性があります。したがって、SOP作成時には、法規制に基づいた適切な内容を確認し、反映させることが必須です。

SOPの業界ごとの適用例

SOPは、さまざまな業界で活用されており、業界の特性やニーズに合わせて適用されています。業界ごとに異なる要求や規制に対応するため、SOPの内容や構成も多様です。以下では、製造業からエネルギー・化学業界まで、各業界でのSOPの適用例について解説します。

製造業全般

製造業では、SOPは生産プロセスの一貫性と品質を確保するために不可欠です。具体的には、製品の組み立てや検査、機器の操作手順、保守作業など、各工程での標準化が求められます。SOPに従うことで、製品のばらつきを抑え、不良品の発生を防ぐことができます。また、従業員のトレーニングにも利用され、迅速な習熟が可能になります。

製造業の中でも、自動車産業向け国際規格であるIATF16949では、SOPによる文書化が規格要求事項にもなっています。このように、製造業におけるSOPは、効率的な生産と品質管理の基盤となっています。

IATF16949についての詳しい解説はこちらの記事を参照ください。

→ IATF16949の概要：自動車業界に不可欠な認証制度の基礎知識を徹底解説

医薬品・バイオテクノロジー業界

医薬品やバイオテクノロジー業界では、GMPに準拠したSOPが不可欠です。この業界では、製造プロセスの各段階で厳格な規制があり、SOPを通じて品質と安全性を確保します。

例えば、薬品の調合、試験、保管、輸送など、全ての作業がSOPに基づいて行われます。これにより、製品の品質保証と規制当局への対応が容易になります。医薬品業界では、SOPが品質管理の中心的役割を果たしています。

医療・ヘルスケア業界

医療・ヘルスケア業界では、患者の安全を守るためにSOPが広く使用されています。具体的には、手術や診療、薬の処方、治験、感染予防対策などの手順がSOPに基づいて行われます。

SOPに従うことで、医療ミスを防ぎ、診療の質を一定に保つことができます。また、新しい技術や治療法が導入される際も、SOPがトレーニングの基盤となり、迅速な現場適応を支援します。この業界では、SOPが患者ケアの質を維持するための鍵となります。

食品業界

食品業界では、HACCP（Hazard Analysis and Critical Control Points）などの規制に基づいたSOPが導入されています。食品の製造、加工、保管、輸送の各段階で、衛生管理や品質管理の手順がSOPに定められており、食の安全を守るために重要な役割を果たしています。

また、従業員の衛生教育や異物混入防止策もSOPに含まれます。食品業界では、SOPが消費者の安全と製品の品質を確保するための不可欠なツールとなっています。

HACCPについての詳しい解説はこちらの記事を参照ください。

→ HACCPとは何か　原則や手順、資格、運用の課題と解決策について解説

IT・ソフトウェア業界

IT・ソフトウェア業界では、システム開発や運用、セキュリティ管理のためにSOPが活用されています。例えば、ソフトウェアのリリース手順、コードレビュー、データバックアップ、サイバーセキュリティ対策などがSOPに基づいて行われます。

これにより、プロジェクトの進行がスムーズに行われ、品質が保証されます。また、トラブル発生時の対応手順もSOPに記載されており、迅速な問題解決をサポートします。IT業界では、SOPがプロジェクト管理と品質保証の基盤となります。

金融業界

金融業界では、コンプライアンスやリスク管理のためにSOPが重要な役割を果たします。例えば、顧客対応、取引処理、内部監査、法規制対応など、各業務において標準化された手順がSOPに定められています。

SOPに従うことで、法令違反のリスクを減らし、業務の透明性を確保します。また、金融犯罪の防止や危機対応にもSOPが使用され、業界全体の信頼性を維持するために貢献しています。金融業界では、SOPがコンプライアンスとリスク管理の柱となっています。

サービス業

サービス業では、顧客対応やサービス提供の一貫性を確保するためにSOPが使用されています。例えば、接客マニュアル、クレーム対応、サービス提供手順などがSOPに記載されており、従業員が均一なサービスを提供できるよう支援します。

SOPに従うことで、顧客満足度の向上やトラブルの防止が期待されます。また、従業員のトレーニングツールとしてもSOPが活用され、新人が迅速に業務に習熟することが可能です。サービス業では、SOPが顧客満足度とサービス品質の維持に役立っています。

エネルギー・化学業界

エネルギー・化学業界では、安全管理と品質管理のためにSOPが欠かせません。特に、危険物の取り扱いや設備の保守点検、環境対策などで、SOPに従うことが求められます。

これにより、作業員の安全が守られ、事故のリスクが低減されます。また、製品の品質を確保し、法規制を遵守するためにも、SOPが重要な役割を果たしています。エネルギー・化学業界では、SOPが安全と品質の管理を徹底するための基盤となります。

まとめ

SOPは、業務や作業を標準化し、品質と安全性を確保するために作成される手順書で、製造業や医療、IT業界など多様な業界で活用されています。一貫した製品の品質を担保するうえで非常に重要な手段のため、是非、理解しておきましょう。

製造業の品質管理全体を管理できる品質管理システムについては、以下の記事もご参照ください。

→ 製造業向け品質管理システム13選！機能や特徴、導入メリット、選び方をまとめて紹介

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