デジタル化で会社の一体化が実現!現場と営業のDXプロセス
Vol.1 ハードロック工業株式会社
業界:金属加工 / 従業員:88名(2022年6月現在)
世界初の「ゆるまないネジ」を開発し、大阪府東大阪市の町工場から世界的なメーカーへと成長を遂げたハードロック工業株式会社。急成長を遂げる会社の裏側で、いかにしてDXが行われたのか—。
代表取締役 若林 雅彦氏、プロジェクトマネージャー 山本 正司氏に話を伺いました。
【目 次】
- 第一章 会社紹介 「ゆるまないネジで安心・安全を提供する」
- 第二章 取り組み-1 「DXは大胆にではなく、小さく積み重ねていくもの」
- 第三章 取り組み-2 「動きが止まったコロナ禍に、デジタルで新たな動きをつくる」
- 第四章 今後の展望 「中小企業は、必ずDXをやったほうがいい」
代表取締役 若林 雅彦(わかばやし まさひこ)氏
入社時から経営手腕を発揮し、父である創業者・現会長の若林克彦氏とともに、同社を社員数十名だった町工場から世界的なメーカーへと成長させた。2020年に代表取締役に就任後、即DXに着手。営業と製造どちらにおいてもデジタルによる新たな仕組み作りを成功させている。
プロジェクトマネージャー 山本 正司(やまもと しょうじ)氏
前職の製薬会社でのシステム管理責任者の経験を活かし、同社では、社長直轄プロジェクトの現場責任者としてDXを推進。社内の全体最適化に尽力している。一方で、高度なITスキルを駆使し、営業グループのデータ分析など、営業支援業務におけるデジタル化の取り組みでも成果をあげている。
第一章 会社紹介「ゆるまないネジで安心・安全を提供する」
——―― まずは世界初の「ゆるまないネジ」について、どのような製品か教えていただけますか。
若林 雅彦氏(以下、若林):現会長の若林克彦が、神社の鳥居の柱と貫の接合部に打ち込まれたクサビに着想を得て、その原理をナットで具現化しました。凸凹2種類のナットを使うことで、ボルトと完全に一体化し、いかなる振動・衝撃にも耐える“究極のゆるみ止め”それが、「ハードロックナット」です。
——―― 「ハードロックナット」はどのような場所で使われているのですか。
若林:1974年の販売開始以降、産業機械をはじめ、新幹線や瀬戸大橋、明石海峡大橋ほか、世界各国の鉄道車両や、近年では東京スカイツリー、発電所、F 1 カー、人工衛星まで、国内外のあらゆる場所で採用されています。また、現在は体内に埋め込まれる医療用インプラントでも利用可能なナットの開発に挑んでいます。
——―― 社会に必要不可欠な場所で多く使われていますが、「ハードロックナット」が採用される以前は、ネジがゆるむことがあったのですか!?
若林:いくら固く締めたネジであっても振動や衝撃などの様々な原因からゆるみが起こり、重大な事故につながったというケースはこれまでにたくさんあります。にもかかわらず、ゆるみを完全に無くすことは不可能と言われ、業界では夢物語でした。
そんな状況下でハードロックナットが誕生したのですが、当初は世間では物事をシンプルにしようという動きが強かったので、ナットをふたつに分けるなんて時代に逆行するような発想でした。しかし、私たちが最も大切にしたかったのは“安心”と“安全”の提供です。世間からも業界からも逆風が強かったのですが、自分たちの信念を優先しました。
第二章 取り組み-1「DXは大胆にではなく、小さく積み重ねていくもの」
——―― 製造業DXの取り組みについて、「スマートF」導入前はどんな問題がありましたか?
山本 正司氏(以下、山本):問題山積みでした(笑)例えば、お客様からの注文を受けると、手書きの現品票で物を確認して、生産指示書を手書きする。作業が完了すれば現品票に作業実数を手書きして…と、現場はすべて手書き伝票での運用で効率が悪く、増える受注に製造がおいついていませんでした。
数千万円をかけて生産管理システムを導入し、全体の管理ができるようにはなりましたが、現場での細かな管理ができず、結局現場は手書きのままで、現場の使いやすいエクセル管理とシステムの二重入力が各部門で残ってしまいました。また、手書きや手入力はミスも発生し、生産進捗や在庫数の正確な情報がすぐに得られず、お客様からの問い合わせにもすぐに対応できていませんでした。
——―― そのような状況下での「スマートF」導入を決断されたということですが、なぜ「スマートF」を選ばれたのですか。
山本:あらたなシステム導入による改善が急務と思ってはいたのですが、現場はやはり慣れた作業からの移行には抵抗があり、反対意見も多く出ました。そこで、前回同様の大胆な改革は難しいと判断し、まずは小さな一歩で成功を重ねることが大事と考え、スモールスタートが可能な生産管理システム「スマートF」の導入を決めました。
——―― 「スマートF」の導入はスムーズに進んだのでしょうか?
山本:前回のシステム導入時は、部門ごとに独自のルールで運用したため、トレーサビリティ、データ集計など、正確性に欠けていました。その反省を活かし、トップダウンでのプロジェクトを立ち上げ、専任者を決めて導入説明と操作手順説明に力をいれました。これまで経験のないQRコードの読み取り作業への戸惑いがあったものの、操作が簡単なことと、専任者による現場サポートに時間をかけたことで、1~2ヶ月で現場の全員がすっかり使いこなせるようになりました。
——―― 実際導入されていかがでしたか。
若林:最初は出荷業務で導入し、その後、現場の全ての業務に導入範囲を広げました。
手書きやエクセル管理がなくなったことで、業務が簡素化されてとても楽になり、ミスも格段に減りました。何より社員の作業ストレスが軽減されたことが大きな効果です。
また、在庫数や生産進捗がリアルタイムに全社で共有できることで、迅速な営業対応が可能になり、商談の機会損失が減りました。
若林:ほかにも、これまでは在庫差異が発生した際に、原因究明に半日以上かかることもあったのですが、スマートFを見ればすぐに原因までがわかるので、今後同じミスをしないよう改善に取り組めるようにもなりました。
人手による作業、特に不慣れな新人にはミスがつきものですが、「スマートF」は誰でも簡単に操作できるので、ミスを減らすことができるのも魅力です。人手不足が言われる昨今においては、経験を問わず、誰もが正確にストレスなく作業できる環境を整えることがさらに重要になっていくと思います。
——―― ほかに「スマートF」を導入して良かった点はありますか。
若林:そうですね、現場の伴走者になってくれる点ですね。ネクスタの社員は製造現場をよくご存知で、その上でうちの現場の声を聞いてくれるので、みんなが信頼感をもって改善要望を口にすることができます。それをきちんとくみ取り、システムがうまく稼働するよう一緒に現場をつくっていってくれる。もし現場が一方的にシステムに合わせないといけないものだったら、DXはすぐ頓挫していたかもしれません。
第三章 取り組み-2「動きが止まったコロナ禍に、デジタルで新たな動きをつくる」
——―― 「スマートF」以外のDX化について、他に取り組まれていることはありますでしょうか?
若林:当社では、営業のデジタル化についても注力しています。
きっかけは、新型コロナウイルスが流行し、従来の対面や展示会での営業活動が全くできなくなったからです。
「スマートF」の導入を決めたばかりのタイミングで、製造現場のDXもままならない状態でしたので、社内の空気は懐疑的ではありましたが(笑)今ここで動かないと何も変わらないと思い、全社をあげてのDX推進を決意しました。
——―― 実際にはどのように営業をデジタル化されたのですか。
若林:実は、コロナ禍での営業活動自粛以外にも以前から課題がありました。私たちの営業スタイルは、お客様の課題に即した製品をお届けする提案型が欠かせないのですが、ネジの用途がとても幅広く、一部の営業担当者がお客様の専門性と対等に渡り合えていませんでした。
そこで、コンサルティング会社に相談し、解決手段として注目したのが「デジタルマーケティング」だったのです。具体的には、 “ネジのことなら何でもわかるソリューションサイト”の公開です。専門の研究者にも執筆を依頼し、ネジの科学的な知識からお悩み解決まで専門性の高いコンテンツを網羅し、各種ホワイトペーパーをダウンロードできるようにもしました。一方で、コーポレートサイトでは、製品CADデータのダウンロードを可能にしたり、MA(マーケティングオートメーション)の導入により、Web閲覧から問い合わせ、商談までの顧客行動や営業活動をデータ分析し、改善を図る仕組み作りにも着手しました。
——―― デジタル化による効果はありましたか。
若林:効果は想像以上でした。問い合わせが増え、製品CADデータのダウンロード数は月60~80件もあり、その7割が新規です。また、実際に製品を使用するお客様から直接要望が聞けるようになったことで、新分野に向けた商品の開発にもつながり、近々新製品を出す予定です。
さらには社内の思わぬ変化もありました。ソリューションサイトからの問い合わせは専門性が高く、営業と技術者が力を合わせないと応えることができません。これまで互いに距離を取っていた両者が自ずと協力するようになったんです。
第四章 今後の展望「中小企業は、必ずDXをやったほうがいい」
——―― 若林社長にとってDXとはなんですか。
若林:中小企業の多くでは、社員が点でしかなく、つながっていません。自分が良かったらいいという考えで動くので、同じ業務が二重三重に行われる。たとえば自分の流儀で帳簿をつくって渡すが、他人には見づらくてつくり直しになる。そんなことがザラにあるわけです。そうではなく全員が連携して最適化しないといけない。私はDXに取り組む中で、デジタルは点と点をつなげるものだと実感しました。DXを正しく行い、組織や業務モデルを変えれば必ず収益が上がります。
社内の意識も大きく変わってきました。当初DXに懐疑的だった会長や社員も、今ではDXの効果を実感してくれています。新しいことには必ず人は拒否反応を示します。だからこそ結果が出やすいところから小さな成功体験をつくっていくべきだと思います。小さくても必ず全社に波及していきます。特に現場はそれを敏感に感じ取ります。だからこそ「スマートF」のようなスモールスタートがDX成功のカギになるのです。
——―― 最後に、ハードロック工業の今後のDX展望を聞かせてください。
若林:デジタルはあらゆる企業間の連携も変えていくものだと思います。今後は、受注発注の自動化も検討していきます。これまでお客様がFAXやメールで依頼していた注文を直接Web上で行えるようにし、社内の受注入力を自動化する。それに連動して生産指示も発注も計画的に行われ、各業務のバーコード入力により、進捗も履歴も全てリアルタイムで更新されていく。各工程の生産情報や検査結果もデータ化し、検査成績書も自動作成されて、お客様はWebからダウンロードできるようになる。
これによりトレーサビリティが詳細に確認できることはもちろん、社内だけでなくサプライチェーン全体のスムーズな連携が進み、社内の業務効率UPとお客様の満足度も向上する。さらに、現場のあらゆる情報を見える化することで、今まで出来なかったような改善活動が可能になる。
若林:DXは業務の効率化がゴールではなく、新たな価値やビジネスモデルの創出が目的です。私たちはナットを売るのではなく、お客様のお悩みや困りごとをトータルに解決し、安心・安全を提供していきたいと考えています。それはネジのどんな相談にも応え、ネジを起点に幅広いソリューションを届けること。これまで点と点がバラバラでしかなかった状態では不可能でしたが、デジタルによってハードロックナットのように会社が一体化したことで、必ずやり遂げられると信じています。
ハードロック工業株式会社
〒577-0063
大阪府東大阪市川俣1-6-24
TEL 06-6784-1131(代)
FAX 06-6784-1161
https://hardlock.co.jp
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